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「ごゆっくりどうぞ」
改めてオーダーした飲み物を持ってきた店員が部屋を出て行く。俺と賢斗は無言のまま、それに口をつけた。
「.......」
「.......」
......俺から話すべき、だよな?
ちらりと賢斗を見れば、賢斗もこっちを見ていて、俺は反射的に目をそらしてしまう。そんな俺に賢斗から話しかけてきた。
「なんでここに来たんだ?」
その声は低い。やっぱり、見合いを邪魔したから怒ってるのかもしれない。俺は恐る恐る声を出す。
「......凌真が、賢斗が婚約するって言うから」
「だから?お前は俺のことなんか嫌いなんだろ?」
「......っ」
そうじゃない。と言えず、俺は黙ってしまう。好きだ、の三文字がどうしても言えない。
うつむいて黙りこくる俺に賢斗はため息をつく。ますます嫌われてしまっただろうかと怖くなったけど、次に聞こえて来た声は意外にもやさしい声だった。
「......悪い。意地悪だったな。理由があるから来たんだろ?時間かかっても良いから、教えてくんねえ?」
「あ......」
顔をあげれば、賢斗は困ったように笑っていた。そこで俺は、賢斗の凄さに、優しさに、改めて気づくことができた。
言い難いのは俺だけじゃない。
俺が何度拒んでも、賢斗は俺に気持ちを伝えてくれた。嫌われてるの分かってて告白するなんて普通できないだろう。俺だったら無理。恥ずかしくなって逆ギレして喚き散らして逃げると思う。
でも、賢斗は、言い難くてもずっと伝えてくれた。素直になれない俺を責めずに、ただ伝え続けてくれたんだ。
......今度は俺の番だ。
俺は手を握りしめて口を開く。もう逃げない。ちゃんと賢斗を見つめて話すんだ。たとえ賢斗がもう俺のこと好きじゃなくても。
「昨日のメール......賢斗から凌真に送ったやつ」
「ああ」
「それで、凌真から賢斗が婚約するって聞いて......」
緊張から声は震えているし、途切れ途切れだしで、聞きづらいはずなのに、賢斗は相槌を打って聞いてくれる。
「俺......嫌で。賢斗が他のやつと結婚するの嫌だったから......だから来た」
「......嫌、だったのか?」
「うん。嫌だった。だって......だって.......」
あと少し。あと少しで伝えられる。あと少し頑張れば、好きだって伝えられる。
けど、ずっと気がつかないふりをして隠してきた気持ちは、なかなか音になってくれない。そんな自分が情けなくて唇を噛むと、血の味が口の中に広がった。
この血の味と痛みは、俺の臆病な証拠。自分の気持ちを隠すたびに唇を噛んできた。......これからはもう荒らさないようにしなきゃな。
俺は唇を噛む代わりに大きく息を吸う。そしてまっすぐ賢斗を見つめて、自分の気持ちを声に出した。
「俺、賢斗が好きだ」
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