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......なんて嘘だけどな。
放心する修弥に気づかれないようにため息をつく。
この俺が修弥の悪口を他人に言うわけがない。
確かに瑞希に幼なじみの話はしたけど、生意気ながらも可愛いところもあるとか、そういう惚気ばっかりだ。
ただ......瑞希が、一ノ瀬家の坊ちゃんの困った性格について知っているのも事実だった。
ある日、俺の仕事に瑞希が同行したとき、他の家の使用人にかつて一ノ瀬家に仕えていた人がいた。
「今はここに勤めていらっしゃるんですね」と挨拶をすれば、その人はみるみる苦い顔になっていき、修弥のことを罵倒した。
『わがまま坊ちゃん』
『すぐ怒鳴ればいいと思っている』
『使用人を人間と思っていない』
そんな言葉が次々と溢れ出てきて、俺は拳を震わせた。
何も知らないくせに。修弥の苦悩を何も知らない人間が、あいつのことを好き勝手言ってんじゃねえ。
確かに修弥の使用人に対する接し方は褒められたもんじゃない。
けど......両親に甘えられる時間はほとんどなく、周りの人間からは成金だと蔑まれ、何度か誘拐だって経験してる。誘拐犯が使用人だったことだってあった。
それから自分の身を守るためには、修弥はああするしかなかったんだ。
頭に血が上った俺がついその使用人に手をあげそうになったとき、小さな手が俺を制した。
その瑞希の顔は今でも忘れられない。
『賢斗様まで、そっちの人間にならないでください』
そう言った瑞希からは、主人と呼ばれる人間に対する諦めが感じられた。そして、今の主人の俺にすがっているように見えた。あなただけは違っていて欲しいと、そう言われているようだった。
瑞希は多分、一ノ瀬家の坊ちゃんが嫌いだ。
......けど、修弥のことは大好きだから、だから大丈夫。
修弥だって、前の修弥じゃない。今は使用人のありがたさだって分かっているはずだ。
「修弥」
放心状態の修弥の頬に手を伸ばし、自分の方へ向かせる。
「好きだ」
俺がそう言うと、修弥は俺を軽く睨みつけた。
「人の悪口言ったくせに」
本当のことを言えば、元の修弥に戻ってしまうかもしれない。また使用人に厳しい目を向けるようになってしまうかもしれない。
それは避けたいと思った俺は、笑って嘘をつく。
「本当のことだろ?」
「......」
「けど今は違うことみんな分かってる」
不安そうな顔をした修弥にそう言って頭を撫でてやれば、修弥は複雑そうに眉をしかめる。
「......瑞希も?」
「ああ」
「......もし瑞希が友達やめるって言ったら?」
「あいつはそんなこと言うやつじゃないだろ?」
「......それはそうだけど」
凌真以外でせっかく出来た友達なんだから大事にして欲しい。
俺が願うのはこいつの幸せだけ。
「自信持てって。この俺が大丈夫だって言ってんだ」
俺がそう言えば、修弥は「何様だよ」よ悪態をつきながらも小さく笑った。
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