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「鳴上......いつもの......」
目を閉じて待てば、短いリップ音が響いた。
「修弥様......朝からそのように誘うのはおやめください」
「何で?いつも鳴上からしてくるだろ?」
「......ですから、あなたから求められると戸惑います」
ぱっとみ、無表情なんだけど、どこか照れている鳴上に頬が緩む。
「何だよ。もう30歳過ぎてんのに、情けない奴」
31歳になった鳴上だけど、見た目はまだ全然若い。
なのに本人は気にしているようで、俺の口を指でつんとつついた。
「......年齢のことはやめてください。そうおっしゃる修弥様も、随分積極的なことで」
「ふん。俺ももう大人だからな。何たって春からは社会人だぞ」
大学の単位は余裕で取り終えて、内定ももらった。
春からは、父さんの会社の新入社員だ。
別にコネ入社じゃない。実力だって自信を持って言える。
『実力ある者を次の社長にする。それに血の繋がりは関係ない』
父さんはそうやって俺に言った。
一見、厳しい言葉に感じるそれは、すごくありがたかった。
裏を返せば、もう男しか好きになれない俺でも、その後の跡取りのことを気にせず、社長になっても良いということ。
世襲制にはこだわらない。父さんは、そう言ってくれたのだ。
まあ、本当に実力見せなきゃ、社長にしてくれなさそうだけど......。その方がやりがいがあるってもんだ。
「鳴上、今日は新しい家を探しに行くぞ」
「家、ですか?」
「父さんと母さんが、一人暮らししても良いって。あ、違う。正しくは二人暮らしだな」
春からは完全に家を離れて、自立することにした。
少しは不安だけど、鳴上を連れて行くことは許してもらったし、楽しみでもある。
「まあ、新入社員の給料なんてたかが知れてるから、あんまり良いところは住めないだろうし、お前の給料は俺が払うことになるから今より少なくなるだろうけど、付いてきてくれるだろ?」
「それはもちろん......ですが、私は給料なんていただかなくても......」
「駄目だ。お前は執事でもあるんだから、そこはちゃんとする」
「......分かりました」
渋々だが、うなづいた鳴上はベッドから下りる。
テキパキと服を着替えて、まだベッドのなかで鳴上を見つめていた俺の額にキスを落としてくる。
「朝食の用意をしてまいります」
「ん。よろしく」
最後にまたキスをして、鳴上は部屋を出て行った。
付き合いたてはお互いよそよそしかったけど、日を重ねるごとに良い関係を築けてこれた。
今では本当に鳴上のことが大好きだ。
一生一緒にいたいって思える。
けど、俺は気づいていなかった。
気づかないふりをしていたのかも知れない。
今の俺の気持ちは、賢斗に感じた感情とは全く別物だってことに。
胸が苦しくて、辛くて、すぐ泣きそうになるけど、どこか心地良い。
そんな矛盾ばかりの感情が再び俺のなかに現れることはなかった。
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