アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
145
-
『へー、じゃあ兄貴帰ってきたんだー』
「はい」
そう相槌を打てば、相手の間延びした声が、今度はクスクスと笑う。
『鳴上さんも人が悪いよねー。俺がちゃーんと兄貴の近況報告してあげてたのに、修弥には全然教えてあげてないんでしょー?』
「......本当に意地の悪いお方ですね。凌真様は」
修弥様は皇家の方々との連絡は禁じられていたけれど、私は凌真様のお計らいで、頻繁に連絡を取り合っていた。
賢斗様のことは凌真様から聞いていたが、私が修弥様にそれを話したことはなかった。
修弥様を置いて行った人のために行動するほど、私は善人ではない。
『いやー?別に鳴上さんを責めてるわけじゃないよー。俺は別にブラコンじゃないから、むしろ鳴上さん推しだしー』
「......何ですかそれ」
確かに凌真様は意外にも私のことを応援してくださったし、感謝はしているが、あまりにも軽い物言いに呆れて返す。すると凌真様はまた可笑しそうに笑った。
『それにしても、最近の兄貴のことは俺にも分からなかったし、まさか逃げ出したなんてウケるー』
逃げた。
前から聞いていた凌真様の話によると、賢斗様は無理やり海外へ留学させられ、学校、仕事場、家のみで、それ以外は監禁同様の生活を強いられてきたらしい。
それが今回、逃げてきたということだ。
皇の家は大丈夫なのかと心配になる。
賢斗様がいなくなった今、しわ寄せは凌真様に行くはずだ。
「そちらは色々大丈夫なのですか?」
『うーん、俺への引き継ぎは父さんに内緒でとっくに終わってるし、こっちは問題ないよー。父さんがちょっとピリピリしてるくらい』
「そうですか。......本当に凌真様がお継ぎになるんですね」
『んー?まだ心配してくれてるの?』
心配、なのだろうか。
修弥様同様、凌真様とも幼少の頃からのお付き合いで長い。
そんな凌真様がなんだか無理をしているようにも見えて、なんだか居た堪れなくなるのだ。
けれど、私が口を出すことでもない。
「......いえ。凌真様がよろしいのならそれで」
私がそう返せば、またクスクスと笑いを漏らした凌真様が「それよりさー」と話を変える。
『そろそろ抱いてくれる気になった?』
「......」
『あれ?聞こえてるー?』
「......聞こえていますし、それは何度もお断りしているはずです」
まったく、このお方は......。
私が修弥様とお付き合いを始めても諦めない凌真様。その度にお断りするが、それでも諦めてくださらない。
それは今日も例外ではない。
『もー、頑固だなぁ。一回くらい良いでしょー?修弥ばっかりずるい』
「......ずるくはないです。そういう関係ですから」
『ちぇー、惚気ー?』
「そういうわけでは......」
全くどうしたものかと困り果てる。
しかし凌真様は賢いお方で線引きを心得ていて、なんだか憎めないでいた。
『まあいいやー。寂しくなったらいつでもどうぞー』
「.......遠慮させていただきます」
『ふーん、ま、今日のところは、ばいばーい』
「はい、失礼いたします」
凌真様が通話を切ったのを確認して、携帯をしまう。
『絶対に取り返しに行きますから』
......賢斗様は、あの言葉通り、修弥様を取り戻しにくるだろう。
もちろん修弥様をそう簡単に渡す気は無い。
......本人がお望みになるまでは。
修弥様が私を頼りとしてくださる限り、私は修弥様のそばに居続ける。
たとえそれがあとわずかだったとしても.......。
私は何があってもあの方に従う。
だって、私は修弥様の専属執事なのだから。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
145 / 185