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中に入って、リビングへ歩いていく。
急いで、小走りになって、その扉を開く。
「なんでいるんだよ......別に約束してないだろ」
玄関に靴があって驚いた。
あの日以来、こいつがここに来たことはなくて、いつも寂しくなって、いつの間にか俺も来なくなった。
それが今日、ここに一緒にいる。
「なんでって......言ったろ?俺に会いたくなったら、ここに来いって」
「......っ。いつもいなかったくせに」
「ごめん。だから今度は、ずっと待ってた」
その言葉に、周りを見渡せば、若干ではあるが生活感があった。
賢斗が退院をしてから数日間、ずっとここにいたのだろうか。
「退院したら家に戻ってくるかと思ってたのに、執事やめたって母さんから聞いた」
「ああ、もう仕事は大丈夫になったからな。それに、あのまま修弥の家にいても、修弥を急かすだけだと思ってよ」
「......」
本当は鳴上に話してすぐに賢斗のところへ行こうと思った。
けど、退院するまではって延ばして。
退院してからも、会いにくるのに数日かかった。
しかも、賢斗がここにいるって確証はないのにだ。
そんな相変わらず逃げグセがある俺を、賢斗はこんなにも待ってくれる。
「待たせてごめん......」
情けなくて謝れば、賢斗が優しく微笑んだ。
「そんなことはいいんだ。けど、ここに来たってことは決めたんだろ?」
「......うん」
「聞いてもいいか?」
「......うん。俺は......俺は......」
こんなにも拗らせた想いは、なかなか口から出て来ない。
たった二文字が言い出せない。
何度口を開いても結局言えなくて、俺がとった行動は。
「......これ」
俺は左手を賢斗に見せた。
賢斗が結婚しようって言ってくれた、指輪を。
「これ......俺.......」
もうやだ。
散々待たせて、肝心なこと言えなくて、本当に自分が嫌になる。
賢斗も呆れるだろって思ったのに、全然違った。
賢斗の方へ向けた左腕が引かれ、賢斗の胸に収まる。
「け、賢斗......」
「悪い......もう待てねえ」
賢斗は俺を強く抱きしめた。
強くても、大事に抱きしめてくれた。
「好きだ、修弥」
「......っ」
俺も、って言いたい。
けど、やっぱりまだ、どこかに罪悪感が残ってて。
「......まだ言えねえのか?」
「ごめん。ごめん......俺、ほんと......」
なんで言えない?病院ではあんなに言えたのに。
言いたくて言いたくて堪らないのに。
こんな役立たずの口はいらない。
そう思って、つい唇を噛んでしまう。
その唇に、賢斗の指が触れた。
「いいよ。お前のその性格含めて、好きになったんだ」
「......っ」
指を耳元に移動させた賢斗が、顔を寄せてくる。
綺麗な顔が近づいて来て、俺は自然と目を瞑っていた。
軽いキスが終わり目を開けると、幸せそうに賢斗は笑っていた。
「素直な修弥も可愛いけど、素直じゃない修弥はもっと可愛い」
「意味わかんない......こんなの可愛くない」
「そうか?無理にでも俺が言わせてやるって興奮するけどな」
「ば、ばか」
悪態を吐く俺に、賢斗はまた幸せそうに笑うのだった。
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