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失言。
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◆ ◇ ◆
何か強い振動と、酷く落ち着く声が聞こえる。しかし声は慌てていて、早く起きないと泣き出してしまいそうだ。何故かそれは、凄く嫌だと思った。
「グルさん!! おい!!」
「ん……ねむ……い……」
まだ寝ぼけた口調で話すと、声は安堵したように俺を呼び、そのあとあたたかい何かが俺をつつみこんだ。何だろう。とても落ち着く。
「よかった……」
◆ ◇ ◆
安堵のため息を漏らした俺は、まだ眠たそうなグルさんをぎゅっと抱き締める。随分と着崩された服に、先程の大先生の様子が過るも、それをふりはらってグルさんをベッドへと寝かせる。ただ眠っていただけのようだった。
不安を煽るような言葉を発した大先生に苛立ちを覚えたころ、その後ろでちいさな声があがった。
「……と……んと……」
心臓を抉られるような、感覚。
彼に名を呼ばれる等、これまでに何度もあったのに。
「……ぇ……」
声に目を向けた先にあったのは、目の端から涙をこぼれさせるグルさんの姿だった。
涙を見るのが無性に嫌で、もっていたハンカチを使いそれを拭う。いったい何を思い泣いているのかはわからないが、安心してくれればいいと思い髪を撫でた。
「……ん……?」
「っ!?」
しかしそれでグルさんの瞼が持ち上がり、俺はすぐさま1歩さがった。
グルさんは俺を見て、心底驚いたように目を見開く。それに何故か、胸が痛んだ。いつもなら普通の意味で捉えている。しかし、大先生の言葉で心をかき乱された状態では、全く別の事を考えてしまう。
朝起きて最初に見るのは、俺ではないと言われている。そう考えてしまった。
「ごめん、起こしてもうた……よな」
「……い、や……」
ぎこちなく答え目をそらすグルさんに、激昂で忘れかけていた重要な事を思い出す。
__俺は今、グルさんに嫌われているじゃないか。
俺の気のかけ方は、虫酸が走る。そう言われていたのに。考えられない行動だ。眉を潜めて、また1歩、下がる。
と、同時に、何かが手に触れた。サイドテーブル……正確に言えば、その上に乗った紙に。
「まっ……」
それを手に取ると同時に、グルさんが声を出すが、本を読んでいる身としてはこの程度すぐに読み終わってしまう。
『おはよ。朝、一緒に居られんでごめんな。バレたらまずいし、俺は早く出るから。ゆっくり休んでな』
大先生の文字で書かれた、事後を思わせる文章。止めた理由は、これか。男同士で、という事に俺が不快感を覚えるとでも思ったのだろうか。
ふつふつと湧き上がる感情を押し殺し、そのメモを置いた。
「……と……トントン……?」
しかし隠しきれていなかったのか、少し怯えたような声で名前を呼ばれる。
さあ、言おう。なんでもないと。幸せにと。
「なあ、グルさん。誰にでも股開いてるん?」
「っ……!?」
え
「なんや図星かぁ。ちゃうんやったらグルさんなんか言い返してくれるもんな? あと誰に抱かれたん?」
「ち、ちが……」
まて
「ええやん教えてくれたって。大先生と? オスマンとか、しんぺいさんとかなん? エミさんとか? それか援交でもしてるん?」
「して、してないっ……ちがうっ……!」
ああ、嘘だろ。
「何がちゃうねん。現にこんなメモ残っとって。ヤったんやろ? 大先生は男まで抱くんなれとったんやなぁ。グルさんも抱かれるんなれとったんやったら結構楽に入ったんちゃうん?」
「や、やだ、いやだ、してない……!」
はは。もう終わった。
なんでこんなに、余裕がなくなるんやろ。醜いなぁ……。グルさんも嫌がっとるんに。
「へぇ。ほんまに」
俺の妥協したようなセリフに、グルさんはこくこくと頷く。しかし、俺はその程度で収まる事はないようだった。
「傷付くわぁ、嘘つかれたら。こんなメモ残されて入れられてないわけないやろ」
そこで、異変が起きた。
グルさんが目に涙を溜めて、こちらを睨んできたのだ。
「お前こそ、コネシマとどうなんだ……!!」
しかし、そんなセリフを言われてもなんの心当たりもない。
眉を潜めていると、ぐいっ、と胸ぐらをつかみ、引かれた。
「シッマがなんやねん。無理矢理結びつけるん止めて欲しいねんけど」
「とぼけるな……!! お前があいつとした事、一昨日にもう聞いてるぞ」
「はぁ? 俺とシッマはココ最近二人だけにもなっとらんのに、何する言うねん」
「だから!! 大先生からお前らが付き合ってるって言うのを聞いてるんだ!!」
なんの話や。そう問いかける前に、体が動く。
「んっ……!?」
ずっと焦がれていた、口付けを。
1度してしまえば歯止めはきかず、彼の後頭部を押さえ、深くまで入り込む。抵抗を受けようがなんだっていい。俺が好きなのはグルさんだと、教えこもう。
「ん、ぅ……!!」
涙を流し、わざわざ口から息をしようとして苦しそうに俺を押す。そんなに嫌か。大先生とはしただろうに。
苛立って口を離すと、グルさんは俯いて肩で息をする。
「……んで……」
涙声で告げられる小さな声は聞き取り辛く、俺は短く聞き返す。
「なんや」
挙げられた顔を見て、心臓が鷲掴みにされたようだった。
呼吸ができないという訳ではなく、心底苦しそうな顔が、俺を睨みつける。
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