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感情:side御門黎士
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なんだ、あいつは。
そう思ったのは、中庭で白亜らしき人影を見た時だった。
白亜を抱き締めて、その唇を奪っている金髪の男。
誰かに説明されなくても、俺にはわかった。
あの男が、高槻仁。
高槻の手から白亜を奪い返したとき、俺の心臓は痛い程に脈打っていた。
白亜を泣かせた。怖がらせた。
それに、目の前が真っ白になりそうな程腹が立つ。
だが、それだけじゃない。
俺の心臓を掴んで離さない、これは緊張だ。
高槻仁の噂は、さほど詳しくはないにしても知っている。
血みどろの噂話が付き纏う、最強の不良。
そいつが今、本気で、俺の幼馴染を手に入れようとしている。
どくどくと体内を叩く心臓を押さえつけて、俺は白亜を抱き締める腕に力を込めた。
取られる。取られてしまう。
あいつに、俺の、大切なものを。
「………ふーん、なるほど」
高槻の声の調子が変わった。
からかうように、しかし、さらに敵意を増して。
気づかれたんだろう。
俺の、白亜への感情に。
腕にさらに力が籠る。
決して逃がさないように。あんな男の元へ行かないように。
「れい、し、痛い……」
戸惑ったような白亜の声が聞こえた。
惜しみながらも腕の力を緩め、白亜の顔を覗き込む。
「お前、あいつに何された」
うっすら上気した顔に、涙が滲んだ青い目。
きれいだ、と思う反面、この顔をさせたのが高槻だと思うと胃がむかむかしてくる。
そっと、白い首筋を撫でた。
あいつはここにも触れたんだろうか。
そう思うと、今すぐ白亜をどこかに閉じ込めたい衝動に駆られる。
熱で潤んだ青い瞳が俺を見た。
怯えた表情に、俺の制服にしがみつく手に、薄く開いた唇。
ふいに、白亜が高槻を振り返った。
「「っっ!!!」」
息をのむ音が重なった。
白亜を見た高槻が、一瞬目を見開き、そして―――ギラギラと光る瞳で、笑ったのだ。
独占欲、愛情、恋情、執着、欲望、そんなものが渦巻く琥珀色の目が、白亜に向けられる。
欲しい。
食べたい。
犯したい。
その目はぞっとするほど雄弁だ。
咄嗟に、俺は手を伸ばして白亜の目元を覆った。
白亜の驚く声が聞こえたが、今だけは聞いてやらない。
高槻の顔を、あのギラギラした目を、どうしても白亜に見せたくなかった。
あの目を見たら、白亜の何かが変わってしまいそうで。
「帰るぞ、白亜」
俺の声は、自分でもわかる程に切羽詰まっていた。
焦っている。そりゃ焦りもするだろう。
あいつのあんな、獣のような目を見たら。
怒りと緊張で、頭がぐらぐらした。
白亜は今、俺の手の中にいる。
幼馴染として。頼れる友人として。
それで、満足したつもりだった。
中庭を抜け、靴を履き替え、生徒会室へ向かう。
その間も、握った白亜の手は離さない。
半ば強引に、俺は白亜を奥の仮眠室まで連れ込んだ。
「……黎士?」
戸惑ったように、白亜が俺の顔を覗き込む。
ずっと前から好きだった。
あんな奴の所に行くな。
どうか、俺を選んで。
言えたら、どんなに楽だろう。
高槻よりも愛してやれる。泣かせたりしない。
嫌がる事はしないし、お前が怯えている事からも守ってやれる。
「……黎士?とりあえず、ありがとう」
「……ああ」
言 え な い 。
この関係を壊したくない。
ずっと、白亜の隣にいるために。
拒絶されるのが、たまらなく恐ろしい。
「先生方には、早退すると連絡しておく。だから、今日はもう休め」
「そうする」
だからせめて、誰のものにもならないように。
「黎士」
仮眠室を出る直前、白亜が振り返って俺を呼んだ。
「お前が来てくれてよかった」
気付いた時には、衝動的に手を伸ばしていた。
白亜の手を掴み、ぐいと引き寄せてそのまま抱きしめる。
すぐ近くで青い目が見開かれ、そして、ふっと緩められた。
「どうした?」
キスしたかった。押し倒したかった。
どうにかして、自分のものにしたくて。
でも、駄目だ。
そんなことをしたら、壊れてしまう。
白亜が笑ってくれるのも、警戒を緩めてくれるのも、全部、俺が「幼馴染」だから。
「………いや」
強ばる腕を悟られないように、白亜を離す。
高槻には渡せない。でも、俺のものにもならない。
「……気を付けろよ」
そう言って、俺は少し微笑んで見せた。
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