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「侑太郎、起きて」
奏英に体を揺さぶられて、目が覚める。
奏英は俺が起きたのを確認すると、嬉しそうに笑った。
「やっと起きた。侑太郎、最近寝過ぎだよ」
「……そうだな」
寝るしか、やることがねぇんだよ。
そんな文句を押し殺して、じっと天井を見つめる。
あの日、奏英に無理やり心を殺された時から、何もやる気が起きなくなった。
ここから逃げたいと思ってる。でも、逃げられないとわかってしまったから、何をしていいのかわからない。なんのために生きているのか、わからない……。
「侑太郎の髪、伸びてきたね。ちょっと女の子みたい」
「っ……」
奏英の手が髪に触れ、さらりと指ですくわれる。
その一挙一動にビクついて、震える拳を握りしめた。いつ、奏英がどんな要求をしてくるのか。そんなことばかり考えて。
「……このままでも可愛いけど、邪魔臭いなら、僕が切ってあげようか」
ハサミを持った奏英に、背後に立たれる。
そんなこと、想像しただけで恐ろしい。
「い、いや……別にいい。困んねぇし……」
「そっか。……でも、前髪が長いと、侑太郎の顔が見え辛いね」
そう言って、奏英は俺の前髪をかきあげた。
急に近づいた距離にビクつきながら、奏英と目が合わないように下を向く。
すると、奏英のシャツの隙間から十字架のネックレスがチラリと見えた。
……こいつ、ネックレスなんて洒落たもんつけてたっけ?
「……このネックレス、気になる?」
俺が見ていたことに気づいたのか、奏英は自分のネックレスを引っ張って見せる。
別に気になるわけではないが、話題が移ったのは好都合だった。
「これね、最近買ったんだ。侑太郎とお揃いにしようと思って」
「……お揃い?」
「うん。本当はご飯食べてから渡そうと思ってたんだけど……ちょっと待ってて」
ああ、余計なことを聞いたかもしれない。
奏英はまるで、新しいオモチャにはしゃぐ子供のように部屋を出て、箱に入ったネックレスを持ってくる。
それから俺の背後に回り、ベッドに膝立ちになった。
「つけてあげる」
そのネックレスは、いつ、どこで買ってきたんだろう。
奏英はいつ出かけたんだろう。どこの店で買ったんだろう。
どんな気持ちで?
なんのつもりで……?
「できた!」
パチ、と後ろでネックレスの金具をはめる音がして、気づいた。
これは、首輪だ。
「侑太郎、こっち向いて」
「……」
「うん……ふふっ、よく似合ってる」
奏英は、まるで俺の恋人のように、幸せそうな顔をして笑う。
目の前の俺がどんな顔をしてるのか、どんな気持ちなのかなんて、どうでもいいみたいだ。
もはや何も言う気が起きなくて、じっと奏英の笑う顔を眺めていた。すると、何を勘違いしたのか、奏英の手が俺の後頭部に回り、引き寄せられる。
そのまま唇が重なりそうになって、ふいと、顔を背けてしまった。
完全に無意識で、ハッとしてすぐに後悔する。
「っ……いや、今のは…」
「わかってる。間違っちゃったんだよね?」
「………え…?」
てっきり、また不機嫌になって髪を引っ掴まれるのだと思っていた。
しかし、奏英は子供を諭すように俺の頭を撫でると、スッとベッドから立ち上がる。
「君が嫌なら……もう、あんな無理やりしたくないから、しないよ」
「っ……奏英……なんか、あったのか?」
「なんかって?」
「……いや…」
突然降ってきた奏英の優しさに、天地がひっくり返ったような衝撃を受ける。
今までずっと無理やりしてきたくせに、今更こいつは何を言ってるのか。もう遅い。そんな優しさ見せたって意味ねぇのに……。
「今日は侑太郎の好きな牛丼だよ。一緒に食べよう」
奏英の不自然な優しさに多少の居心地の悪さを感じながらも、頷くしかできなかった。
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