アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
53
-
「竜也、一緒に遊ぼっか」
「………いいの?」
「うん。父さんがいいって」
勉強の合間に、一人で寂しそうな竜也を誘って公園へ出る。まだ小学校へ上がっていない竜也は、友達もできていない。だから僕が竜也と遊んであげるんだ。お兄ちゃんだから。
近くの公園には、いつも僕のクラスメイトがいた。彼らは鬼ごっこが大好きで、僕は弟と一緒に混ぜて欲しいと言う。すると、彼らはいつも笑って仲間に入れてくれた。
「か、奏英くん…あの、今日はお勉強しないの?」
「いや、もうすぐ戻らないといけないんだ」
「…そうなんだ。大変だね」
「うん。でも、父さんのためだから」
その中にはいつも可愛い女の子がいた。きっとその子は僕のことが好きだったんだと思う。いつも赤い顔をして、僕に話しかけてくれた。僕も、その子のことが嫌いじゃなかった。
「じゃあそろそろ戻らないと……竜也、帰るよ!」
「やだ!まだ遊びたい!!」
「わがまま言うな、父さんに怒られるぞ」
「怒られるのは兄さんだけだろ! 俺はまだ遊びたい!」
「っいい加減にしろ!!」
「奏英」
振り返ると、夕日を背にした父さんがいた。父さんが公園まで迎えに来るのは初めてで、すごく驚いたのを覚えてる。
「竜也は放っときなさい。帰るぞ」
「……でも…」
「いいから行けよ! じゃーね、兄さん!」
「またね、奏英くん」
またねって言ってくれた。それだけで嬉しくて、僕は手を振って彼らと別れた。また遊ぼうと約束して。
でも、"また"は来なかった。
九九を習い始めた頃から、僕はみんなと少しずつずれていった。学校から帰っても父さんに勉強を習い、竜也は外へ遊びに出ていく。でもきっと、みんな僕を待ってくれてる。そう思ってた。
「え、奏英遊べねぇの?」
「あー……奏英兄さんは、俺と違ってすごいんだよ、父さんに期待されてて……だから、今は遊べないんだ。だから俺でもいいかな?」
「んー、まぁ、いいぜ。人数足りないだけだし、行くぞ竜也!!」
サッカーボールを持ったクラスメイトが、僕じゃなく、竜也と一緒に遊びに行く。竜也は何も間違ったことは言ってなかった。なのに心底腹が立って、帰って来た竜也を殴った。竜也は泣いてたけど、僕は謝らなかった。
勉強は嫌いじゃない。父さんは絶対だ。けど遊ぶのも嫌いじゃない。学校も嫌いじゃない。鬼ごっこもサッカーも嫌いじゃない。
「父さん……少し、遊びに行ってもいい?」
「……そうだな。四時半には戻ってくるんだぞ」
父さんも言えば許してくれた。だから久しぶりに公園に遊びに行ったら、あの子達と竜也が鬼ごっこをして遊んでいた。だから、その中に混ぜてもらおうとして、それで、やめたんだ。
あの女の子が、僕のことを好きだったはずの女の子が、竜也にべったりだった。竜也のことを真っ赤な顔で見つめていた。
泥に沈んでいくみたいに胸が苦しくなって、シャツを握りしめる。
「あ…兄さん!? どうしたの?」
「えっ、奏英くん! 久しぶりだね」
学年も違うはずなのに、なんで竜也が僕の友達と遊んでるんだ? まさか、僕の代わりに? そんな簡単に、僕の代わりになれるのか?
「クラス変わっちゃって、一緒に遊べなくなったよね。勉強、大変なの?」
「あ……」
「そうだぞ! 兄さんはお前らよりすんげー難しい勉強してんだ! ひれ伏せバカども!」
「ひれふせ? どういう意味?」
「だからお前はバカなんだよー!」
「バカじゃないよー!」
入れなかった。竜也が僕よりみんなと仲が良くて、女の子の見たことない笑顔を見て、僕じゃダメなんだと思った。
考え過ぎて、毎日苦しかった。竜也と別々の中学校に上がるまで、父に暇をもらうと、いつも公園で遊ぶ竜也を見ていた。
竜也は悪くない。僕が駄目なんだ。
そしたらある日、捨て猫を拾ったんだ。道端でボロボロの雑巾みたいになってる子猫。なんだか可哀想で、家の庭で飼うことにした。父さんは許してくれた。
「名前はミャーにしよう」
子猫は、ミャーと返事した。
友達なんて、いなくてもいい。僕の友達はミャーがいる。ミャーはいつも、僕が庭で休んでると寄ってきて、脚に擦り寄ってきた。かわいい子猫。僕がいないと何もできない。ミャーには僕しかいない。僕にも、ミャーしかいない。
「なんだよその猫!?」
そしたらある日、竜也に気づかれた。庭で隠して飼ってたから気付かれたくなかったけど、竜也がキラキラした目で見るから仕方なく紹介した。
そしたら、ミャーは竜也にも懐くようになった。庭でミャーと遊んでたら、竜也が猫じゃらしを持ってきて、いつもミャーを攫っていった。
僕にはミャーしかいなかった。ミャーには竜也がいた。
だから半分こにした。
そしたら、竜也と二つに分けられる。ミャーは動かなくなったけど、ずっと僕のそばに擦り寄ってくれる。猫じゃらしにももう飛びついたりしない。ミャーはずっと僕のそばにいた。
「何してるんだ、奏英!!」
でも、父さんにぶん殴られて、ミャーはゴミ箱の中へ捨てられた。竜也は泣いていた。僕は訳がわからなくて、泣いた。
なんで? 半分こすればいいじゃないか。そしたら、どっちもミャーと遊べる。何が悪いの?
僕はまた一人になった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
53 / 85