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「ほんと助かったよ香織〜!」
「私はあんたの彼氏じゃないんだけど……」
香織は、ふとため息をついた。
友里からバイトが長引いて遅くなったと電話が来て、迎えに来いと言われたのがさっき。
今日、二人で内定祝いに飲みに行く約束をしていたのだが、この分だと宅飲みになりそうだ。
「どしたの? 内定決まったのに元気ないじゃん」
「うん……」
「もしかして、まだ元彼のこと気にしてんの? もう……」
もう死んでるって。
そう言いかけて、友里は口を噤んだ。
常識的に考えたら、誘拐されてもうすぐ一年になる。殺されていてもおかしくない。
でも、それを被害者の知り合いに言うのは、あまりにも酷だ。
しかし、その友里の気遣いを知ってか、香織は無理に笑顔を作った。
「それより、今日は飲もう! 友里の家行くの久しぶりだし!」
「そうそう! ……あ、掃除してないけどいいよね?」
「また〜?」
空元気で、コンビニの袋に入った缶酎ハイを楽しみに家へと歩く。
その道中、カン、と何かを蹴飛ばし、香織は立ち止まった。
「………携帯?」
真新しいスマートフォンを手に取ると、割れた画面が突然赤く光る。その瞬間、携帯が血塗れなことに気付いて、香織は悲鳴をあげてそれを落とした。
しん、と二人の間に沈黙が落ちる。
「……ねぇ、これ…」
「け、警察に電話する!」
友里は、震えた指で110番を押し電話をかける。
その間、香織は周りに怪しい人がいないか見渡す。そういえば、携帯は派手に割れていた。まるで高いところから叩きつけられたみたいに……。
ふと顔を上げると、目の前には十階建てぐらいのマンションがあった。しかし、入り口には立ち入り禁止のロープが張られている。
「だから、血塗れの携帯があって…!」
友里は、必死に警察に状況を説明しているようだ。しかし、イタズラかもしくは大した事はないと思われているのか、中々取り合ってもらえていないようだった。
ーーそういえば、ずっと前に、友里が言っていた。
" この前バイトが夜だったんだけど、すんごいスタイルいいお客さんが来たんだよね "
「……ねぇ、友里、」
" 真っ黒のフード被ってさぁ、すんごい怪しげでチラッと見ちゃったの。顔はあんまり見えなかったけど、多分あの人イケメンだね "
「もしかしてこのマンションの中にさ…」
「いいから来てください!! 何か事件があったのかも……っ」
" 警察が監視カメラを調べたところ、黒いフードをかぶった人物がスタンガンで店員を気絶させて担いで出る様子が映っており…… "
気付けば、足はロープを超えてマンションの中に踏み込んでいた。背後でそれに気づいて止める友里を無視し、真っ暗な上階を見上げる。
弱々しい携帯の光で照らすと、三階の柵部分にかろうじて何か見える。
「香織っ!! 何やって……」
「……救急車呼んで」
「えっ?」
侑太郎に違いない。香織は焦る気持ちを堪え、エレベーターに乗り込んだ。
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