アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
69
-
「おはよう、侑太郎」
「おう……。飯できてるぞ」
「食べるよ」
テレビでは、三月を迎え、卒業や成人式のニュースばかりやっている。晴れ着を着た芸能人たちが笑いあっているのを見るのにも、慣れたものだ。昔は呑気なテレビの世界を理不尽に憎んだこともあったが……。
全部を諦めると、ラクなもんだった。肩の荷が下りたとでもいうのか。
「あ……今日は洗濯も俺がしとく。帰り遅いだろ」
「うん、多分夜になると思う。助かるよ」
珍しくスーツを着た奏英に内心驚きながら、料理に使ったフライパンなどを洗う。そういえば今日は、マレーシアの物件の話をしに行く日だったっけ。
長く伸びた髪もまとめちゃって、まるでエリートサラリーマンみたいになってやがる。大したもんだな。
「ねぇ、侑太郎。ちょっと来て」
「なんで?」
「ネクタイ直してよ」
……またか。
仕方なく洗い物を中断し、奏英の元へ向かう。
奏英は時々、こうやって家族ごっこを楽しむところがあった。
あれ以来、二週間に一度くらいのペースで性行為をするが、それ以外に無理やりしようとはしてこない。
その代わり、変に構ってくる所がまるで子供みたいで、少し困っている。
黙って俺が直すのを嬉しそうに見つめる奏英にため息をつき、曲げられたネクタイを直してやった。
「……これでいいか?」
「うん、ありがとう」
「っちょ、」
手が離れる前に絡め取られ、指輪にキスを落とされる。あまりにキザな行動に呆れながらも、殴られるよりはいいかと微笑み返した。
奏英は時々、今みたいに物欲しそうな顔をする。けど、ちゃんと我慢してくれている。
……なんか、今までで一番平和だな。
これがずっと続いて欲しい。
「じゃあ……行ってくるね」
「え、飯は?」
「時間ないから後で食べるよ。冷蔵庫に入れておいて」
「わかった」
家を出る寸前、奏英は俺が玄関で見送っている姿を確認すると、また笑った。
「行ってきます」
「……行ってらっしゃい」
その幸せそうな笑顔をみるたびに、胸がチクチクと痛む。それが罪悪感からなのか、不安からなのかはわからない。
扉が閉まると、奏英は鍵をかけた。でも、それ一つだけ。ずっと前のように、中から開けられないような鍵はかけていない。
俺は、完全に信用されている。
そして、それを裏切りたくないと思ってしまうくらいには、俺も奏英を信用してしまっているのだ。
「……洗濯するか」
奏英の朝飯を冷蔵庫に入れた後、さっそく洗濯に取り掛かる。
二人分の洋服や下着を突っ込み、洗剤を入れ洗濯機を回すだけ。それから風呂掃除、トイレ掃除、部屋の掃除、ベッドメイキング。まるで主夫にでもなったような気分だ。
奏英に、家に一人の時はテレビは見たらダメと言われている。だから見ない。しかし、家事を終えれば自然と暇になってしまう。
「はぁぁ……」
ソファに体を凭れ、盛大なため息をつく。
俺も、随分従順な犬に成り下がったもんだ。
しかし、あまりに退屈だ。まだ眠くもない。
仕方なく、今度は細かいところを掃除することにした。これじゃあ本当にお掃除家政婦だな。
何も入っていない棚を掃除し、一度閉じ込められたことのあるクローゼットを開けてみる。
あれからあまり触れていなかったが、相変わらず何も……。
「あれ……なんだこれ」
何もない。と思ったが、隅に小さいダンボールが置いてあった。前に見たときはなかったはずだけど……。
ダンボールは、ガムテープで止められていた。持ち上げると、カシャカシャとプラスチックのような音がする。
「……開けていいよな」
今更、血のついたナイフや殺人ビデオが出てきたところで驚いたりしない。
リビングからカッターを持ってきて、戸惑いもなくダンボールを開ける。すると、そこに入っていたのは大量のDVDだった。
「うっわ……まさかこれ、全部誘拐した奴の……?」
ここまでくると、もはやギャグでしかない。
半笑いでそれらを手に取り、裏面を見てみる。すると、そこには日付と文字が殴り書きで書いてあった。
H14〜H16, 市川隆平, 田茂藍那, 葵荘
H20〜H22, 吉宮楓, 若林耕一郎, コーポ金沢
H12〜H13, 髙橋真香, 横田英樹, ブライトヒルズ光吉
丁寧に、名前の横に時間や場所まで書いてある。どうやら、奏英は家を転々としながら犯行に及んでいたようだった。
ざっと数えただけで、DVDは10枚は越えるだろう。一枚につき2人入っているとすれば、今までの被害者は……。
這い上がるような恐怖に頭を振って、被害者のことを考えるのをやめた。
「……あれ、これだけなんか……」
周りの色の違う真新しいDVD2枚を発見し、手に取る。
表紙には、『見せるやつ』と『捨て』という文字しか書かれていなかった。
"見せるやつ"って、なんだ……?
もしかして、奏英のサプライズ……みたいな?
そう思うと、居ても立っても居られない。掃除はさっさと中断して、そのDVD2枚を持ってテレビの前に急いだ。
奏英が帰ってくるまでにみちまえばバレない。
デッキに、最初に『見せるやつ』をいれ電源を入れる。すると、すぐに映像は始まった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
69 / 85