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「初めまして。俺は、田渕竜也。……奏英の弟だよ」
" 僕の弟はね、頭が良くて、天才って言われてて、将来有望で、友達がいっぱいいて、みんなに好かれてる人。弟を見るとね、吐き気がするよ。どうしたらあんな笑顔を振りまけるんだろうね。みんなに愛されて、みんなに認められて、目障りなんだよ、アイツは…… "
「鍵、掛かってなかったみたいだけど……もしかして、逃げようとしてた?」
" あいつはね、いつも僕の大事なものを奪ってくんだ。今度は侑太郎を奪いに来た。だから殺した。……やっと、殺したっ!! "
「なんで…………」
俺は、確かに聞いた。
玄関口で、奏英と誰かの言い争う声がして……そいつは、奏英のことを「兄さん」と呼んでいた。それで……奏英が、帰ってきたら血まみれで……弟を殺したと嬉しそうに言っていたんだ。
体が勝手に震えた。
なんで? ……なんで生きてる?
「……とりあえず、鍵を開けてくれて助かったよ」
竜也と名乗った男は、背後を気にするようにして扉を閉める。そして、さっき俺が開けたばかりの鍵は再び閉められてしまった。
「……そんなに怯えないで。俺は、奏英の味方じゃないから」
「っ……あ、あの……、ぁ……」
うまく言葉が出なかった。久しぶりに奏英以外の人と話すせいか、動揺して、立ち上がるのもやっとだった。
逃げようとしたことを責められるかと思ったが、そんな感じでもない。
男は、黒の手袋を脱ぎながら、勝手に居間へと上がっていく。
……どうする? こいつの話とやらに、付き合うべきなのか?
でも、俺はもうここには一秒もいたくない。とりあえず、奏英が帰って来る前に逃げないと……。
「ほら、侑太郎くんも座って。話があるって言っただろ?」
「っ……」
奏英に似た声、姿が、俺を惑わせる。
これ以上関わりたくなくて、咄嗟に玄関へと逃げ出す。ドアノブに手をかけ、鍵を開けようとしたその瞬間。
グイッ、と背後から腕を掴まれ、強い力で引っ張られる。しかし、こんな痛み、今までの苦痛に比べたら全然マシだった。
「っ離せよ!! 俺はッ……俺は、帰る。帰らなきゃ……」
「わかってる。俺の用事が終わったら、ちゃんと帰らせてあげるから」
「…………え?」
ちゃんと、帰してくれる……のか?
いや、待て。この男の言うことを信じるのか?それに、本当に奏英の弟だという保証もない。
俺の訝しげな目に気づいたのか、男は困った顔で笑った。
「本当だよ。……俺は、奏英にちゃんと罪を償って欲しくて、ここへ来たんだ。もう一度説得するためにね」
「……説得……? そんなもん……あいつが聞くわけ……」
「うん、そう。君は奏英のことをよくわかってるね。現に一度目は失敗して腹を刺されたよ。……まぁでも、運良く助かったけど」
男は、服をめくって腹部を見せてくれた。そこには、まだ痛々しい傷の縫い痕があった。
……やっぱり、そうなのか。
この人が、奏英の大嫌いな、弟。
「でも、運良くってどうやって……」
「それはここを出てから、ゆっくりと話してあげるよ。でも、まずは俺の話を聞いてくれ」
「…………」
この人は、奏英に一度殺されかけてる。
だったら、いくら家族といえども、俺と同じくらい奏英のことを憎んでいるはずだ……。
その予想を信用し、ソファに腰を下ろし竜也さんと対面する。
なんだか、不思議な感じだった。
奏英をもう少し真面目にして、ちゃんと育てたらこうなるんじゃないかと思うような人。一緒に育てられたのに、こうも違ってしまうものなのか。
竜也さんはふと腕時計に目を落とした。
「あと三十分か……」
「…………は?」
意味のわからない呟きを聞き返すが、竜也さんは「なんでもないよ」と首を振った。
「……それで、話っていうのは……」
「あぁ、うん。君に、奏英への説得に協力して欲しいんだよ」
「……いや、説得って……だから無理だって、」
「無理じゃない。奏英がこんなに長く一人に執着するのは、初めてなんだ。今までの最長記録は……たった、一ヶ月だからね」
なぜか、竜也さんが悲しそうな顔をした気がした。
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