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うさぎ姫
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――あずさが、1年のころからオレのことをスキだったなんて知らなかった――
いつもとなりにいたお姫様に気づかないなんてオレ、王子さまシッカクじゃんか…
「…ふふっ」
「ん?どーした、あずさ」
「ううん。…嬉しいな、って。」
「オレがバカだった……」
「……」
「………」
「やっぱり僕はお姫様にはなれない?」
「!いや、ぎゃくだよ、ぎゃく…。何でもっと早くお姫様に気づかなかったのかなーって…」
「…そう?僕は、はるかのお姫様になれたから嬉しいよ?」
「ほんと…?」
目に見えてわかるほどに、それこそ「ぱああぁぁっ」と効果音が聞こえたように感じるほど、悠の表情が明るくなる。
「……じゃーさ、『翡翠色のリボン』みたいに外がみわたせるとこ行こー!」
梓が嬉しそうに笑う。持っていた本の後ろの方のページを開いて見せた。そこにはお姫様と王子さまが時計塔の一番上に立って美しい街を見下ろしている絵があった。
悠が梓の手を引いて屋上に行こうとした瞬間、予鈴が鳴った。
「、ぁ、……」
「あー、…戻る?それか、次総合だし、行っちゃう?」
「んー…ぃ、く。」
「っし!んじゃー走ろ!」
そう言って、悠は梓の手を掴んで走り出した。梓も決して足が遅いわけではなく、寧ろクラスでも速い方だ。それでも学年でずば抜けて足の速い悠の全力にはついていけるはずもなく、階段の下で立ち止まってしまった。
「…はるか、はやい…」
「あ、ごめん。…本、持つよ?」
「……でも。」
「お姫様の荷物は王子さまがもつって言ったのあずさじゃん!」
「ふふっ、ありがとう。」
そう言うと悠は梓の持っていた『儚き人狼』、『翡翠色のリボン』左手で持つと、右手で梓の左手を握り、階段を上り始めた。梓の顔が真っ赤に染まっていたことは、悠が知る由もない。
「「………。」」
授業中に屋上への扉の鍵が空いているはずもなく2人して扉の前に座り込む。
「…!」
不意に梓が立ち上がり、扉とは反対側にある、2人の身長では届かない高さにある窓へ向かう。そこで掃除用具入れの隣にあった椅子を持って、窓の下へ置く。ぽかんとしている悠を余所に、梓は椅子をもうひとつ運んだ。
「そら!こっち、きて?」
「う、うん」
「…これで、みえるよ」
「ほんとだ…あ、あれ うさぎこうえんだ!」
「うさぎさん、いっぱいいるね」
梓はそう言ってふわりと笑うと、珍しく活発な動きでぴょんと椅子から降りた。いつも本を読んでいる彼は足だけでなく運動神経も、隣にいた悠ほどではないものの、かなり良い。頭の出来もよく、その見た目の美しさも相俟って陰では人気があったりする。悠もそれに劣らず、決して悪くはない外見と“足が速い子がモテる”という小学生特有のあれで、かなり人気がある。頭の出来があまり良くないのはご愛嬌である。
「あとで、…行こう?」
「うん、一緒にうさぎしよ!」
「うん!」
そう言った梓の頭に一瞬、うさぎの長い耳が見えた気がした。
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