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しかし、初めての逢瀬から八日経った日の放課後、転機は訪れた。
橘が、不良仲間の友人と二人で、トイレにやってきたのだ。
「だからぁ、トイレの恋神様の噂ってのは、個室に向かってお願いすると、恋愛成就する!っていうやつであって、喋ったり、まして恋愛相談に乗ってくれるようなやつじゃないんだってば?…」
呆れたような口調で語尾を伸ばして喋るのは、橘がよく連んでいる、他クラスの山中だった。チャラ男(本人曰くフェミニストらしい)と有名なイケメンで、橘が校内で唯一行動を共にする人物だ。どうやらここでの逢瀬の話に疑問を持った山中を、橘が連れてきたらしい。俺は、予想外の展開に、心臓がバクバク鳴るのを抑えられなかった。トイレの恋神様の噂を詳しく知らなかったのは、俺も橘も同じだったみたいだが、とにかく、ここにいて橘の恋愛相談を受けていたのが、俺だとバレる日が来てしまったのだ。
「…でも、俺は恋神様と話をしていたんだぞ?」
橘は、信じがたい、というか信じたくないようで、戸惑った声で山中に返す。
「はあ…あのね、この向こうに誰かがいて、龍平と話してた、ってことだと思うよ?」
深いため息を吐いて橘に言った山中は、続けて、ねえ、出てきなよ、と、間違いなく扉の向こうにいる俺に対して話しかけてきた。
どうしよう、どうしたら、と声も出せず緊張に震えていた俺に、橘の真剣な声がかけられる。
「…一週間、俺の相談に乗ってくれてたお前に、暴力振るうなんてことは誓ってもしねえ。…だから、もし山中の言うことが本当なら、そこから出てきてくれないか?」
橘の言葉は、どこまでも真っ直ぐだった。嘘や偽りを含まないその言葉に、俺は頭が真っ白なまま、それでもゆっくりと、個室の扉を開けた。
「え…」
俯いたらもう顔を上げられない、そう思って、必死に橘と山中の視線を真正面から受け止めた。思わずといったように声をあげたのは山中の方で、橘は目を見開いて呆然としている。山中と俺は面識がないはずだが、これは一体どういう反応なのだろうか?こんなやつが恋神様のふりをしていたのかと、驚いているんだろうか。
ああそれはどうでもいい、と俺は現実逃避しそうになる思考を叱咤する。そして橘に勢い良く頭を下げた。
「ごめん、橘。俺、お前のこと騙してて…ほんとに、ごめん!」
頭を下げて数秒、重たい沈黙が流れる。橘に軽蔑の視線を向けられていたらと思うと、怖くて頭を上げることもできないでいた。そんな中、怒った風でもなく、どこか抜けたような声を発したのは山中だった。
「あ?…龍平。えーっと。がんばれー?」
…いや、確かに声は発したのだが、何に対して応援をしたのか、俺にはよくわからなかった。しかも、友人である橘を騙していた俺に対して怒ることもなく、手をひらひらと振って去って行ってしまった。疑問を隠せず、思わず顔を上げて山中の背中を見つめていた俺は、橘と視線がぶつかると固まってしまう。橘のその目に軽蔑の色が浮かんでいないことに安堵するも、さっきからぴくりとも動かない橘が、段々と心配になってきてしまった。
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