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翡翠と白鷺(青)-8(完)
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上級生が写経している長机を見渡すと空席は幾つかあったけど、何故かみんなして俺の顔をジロジロ見てくるから座りづらい。
さっき俺が風紀室に入る前に入ってった先輩が一番前の列で写経をしていて、その人の両側は空いてるからそこに座ろうとしたらまたしてもみんなして視線を集めてくる。
さっきから一体何なんだろう!!
仮にも上級生なんだから言いたいことがあればはっきり言えばいいのに。
カバンを椅子の下に置いて、右隣の先輩が書いている写経を見ると半分近く進んでいた。
写経って何となく書道みたいに半紙に筆で書くのを想像してたけど、先輩が手にしているのがボールペンで安心した。
これ毎日来たら卒業までに暗記出来るんじゃないかなー、なんて思って後ろの列をチラッと振り向くと斜め後ろの先輩は経本を置かずに書いている。
金髪のチャラそうな先輩が『俺の特技は般若心経を見ずに書ける事』とか言ってるの想像したら笑いそうになって慌てて前を向いた。
俺だって卒業までになんて言わずにもっと早く暗記出来るかも!?
カバンから経本を取り出して般若心経のページを開く。
入学して日は浅いとはいえ、毎朝始業前に唱える日課が課されてるおかげで折りグセが付いていて自動で開いてくれる。
唱えるだけならものの数分で終わるけど、1行目から画数の多い漢字の羅列を書き写すんだと思うとなかなか時間が掛かりそうでため息が出る。
俺がこの学校に居る間に校則が全廃されるなんてミラクルは起こりそうにはないから、卒業までお世話になるんだ。
飽きずに書けるようにどうせなら1文字ごとに何かお願いごとをしようかな。
何にしよう。
結局、お願いごとを決められないまま数日が過ぎていった。
右為っていって写経の最後に正式にお願いごとを書けるスペースもあって、そこにはお手本通りに「心願成就」って書いている。
だけど、先輩たちの提出した写経をこっそり見たらみんなけっこう色んな事を書いていた。
宝くじの番号書いて「1等1億円当たりますように。前後賞でもいいです」とか。
金髪のド派手な先輩で「ダービーで3連単とりたい」って書いてた人も居たし何でもアリっぽい。
だったら俺は……。
考えなきゃいけないのはお願い事なのに目を閉じると何故だかシロの顔が浮かんだ。
それもあの日道場で初めて出会った日の。
お願い事……シロみたいに格好よくなれますように……何か違うな。
別にシロになりたいわけじゃない。
むしろシロが……。
『シロが』
そこまで書いてから写経を誰に提出するのか思い出して慌ててボールペンでぐちゃぐちゃーってして書きかけた文字を封印した。
結局書いたのは『願い事が叶いますように』。
願い事は1文字1文字に心を込めて唱える事にした。
般若心経の神様もいっぱいお願い事されて大変だ。
けど『金』という単語をちょこっと遠回しに表現しただけのダービーとか1億円よりは『憧れ』って単語をすごく遠回しに表現した俺のやつの方が叶えて貰えやすい気がした。
(完)
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