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つきごころ-3
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「志朗さん、見ちゃ駄目です」
「いや、もう見てるから」
扉の外で誰かがヒソヒソと話している気配に何やら不穏なものを感じて振り向いた瞬間、そこに一番存在してはいけないものを発見してしまった。
「志朗」
「シロ」
振り向いたのも同時、声を発したのも同時。
気まずくハモってしまって、瀧川先輩と思わず顔を見合わせた。
「仲の宜しいことで」
10センチほど開いている扉の隙間から覗いていたシロの顔は満面の笑み。
これはこの上なく怒ってるやつだ。
「ごゆっくり」
扉がピシャンと閉まって、瀧川先輩と二人生徒会室に残された。
「まずいな」
「どうしよ、先輩」
「あーあ。今日シロとマック行く約束してたのになー」
項垂れたまま「マック~」と呟いていると、瀧川先輩は何の呪いの言葉だと笑った。
「俺が付いてってやるから志朗んとこ謝りに行くか? ちゃんと謝ったらあいつも許してくれるだろ」
「うんっ! ありがと、瀧川先輩」
二人でシロのもう1つの縄張りでもある風紀室に行ってみるとドアが僅かに開いていた。
その微妙な隙間はシロが勢いに任せて閉めた戸が跳ね返った結果のような気がして不安が募る。
「シロまだ怒ってるよね?」
「どうだろな、ちゃんと誠意を持って謝れば大丈夫だろうけどちょっと覗いてみるか」
足音を立てないように風紀室の真ん前まで進んで隙間から中を覗いた瀧川先輩は、すぐに俺のところまで戻ってくると難しい顔で首を振った。
「……駄目だ」
「どうしたの?」
「砂糖食ってる」
「砂糖?」
「昔からさ、本気でキレると塊の砂糖をボリボリかじり出すんだよ、あいつ。砂糖までいったら手のつけようがないからとりあえず引き返すぞ」
何だかよくわからないけど、シロがめちゃめちゃ怒ってるらしい。
「ほら、行くぞ」
瀧川先輩の顔に切実な焦りが見て取れて、何となくここに留まるのは危険を孕んでいるんだと予想が付いた。
「どうしよう……」
「とりあえず、前髪切って謝りに行った方がいいだろうな」
「えーっ」
せっかくいい感じに伸びたのに。
これで大人っぽくなって、シロと並んでデートに行くのも楽しみだったのに。
「志朗が明日までに切って来いって言ってただろ」
「うん……でも」
「どっちにしてもこのままってわけにはいかないだろ。あいつの怒りが焦げ付かないうちに早めに切ってきて謝ったほうがいいと思うけどな」
瀧川先輩の言うことが完璧に正論なので反論する言葉も出てこない。
「俺、シロと別れる」
「はぁっ!?」
「先輩はさ、前髪切らなくてもいいから俺の気持ちなんて分からないよ。俺はシロに可愛いと思って欲しくて前髪伸ばしてるだけなのに。別に悪いことしてるわけじゃあないのに怒られるんだよ。もう疲れた。もうシロを好きでなんかいたくない」
同情を引きたくてそんな事を言っているのではないけど瀧川先輩が何にも言ってくれないのがショックで視線は段々下がっていく。
「分かった」
「?」
「俺が切ったらお前も切るか」
「う……うん?」
そもそも、俺がゴネてたのはそこだから。
瀧川先輩だけズルいってとこだから。
「約束だな」
「約束」
「わかった。ここに居ろよ」
瀧川先輩がどこかに出ていってしまったから、シロに何か言いに言ってくれたのかもしれない。
10分経っても戻って来ないから仕方なくさっきまで読んでいた漫画を手に取った。
続きのページから読み始めようとしたけれども、頭の中に不安の塊が居座っているせいで全く内容が入ってこない。
勢いで別れるとは言ってしまったものの、本当は何が何でも別れたくない。
シロが居ない未来なんて考えられない。
きっと瀧川先輩が何かいい解決法を考えてシロを説き伏せに行ってくれたんだ。
先輩が戻ってきたら良い方に状況が転ぶに違いない。
漫画を2周読み終わって、何をしようかと思ったところで瀧川先輩が帰ってきた。
その姿を見て思わず息を呑んだ。
「何で……」
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