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小鳥部2
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「変わった部活だな。」
聞き馴染みのない部活名で、助には活動内容がピンとこない。
野鳥の観察でもするのだろうか?臣が鳥にそれほど興味を持っているようには思えないのだが。
「私と、みいちゃんと、おっくんで作ったんだよー。最初の名前は小鳥クラブだったんだけど。」
「それだと、某赤ちゃん雑誌みたいでしょう?だから、小鳥部に改名したんです。」
どうやら二人も小鳥部とやらの部員らしい。
「何する部活なんだ?」
楽しそうに名前の由来を話す二人には申し訳ないが、助が気になっているのは活動内容だ。
「ことりんを愛でて守る部だよ!」
「・・・何だそれ!?」
「だから、小鳥を可愛がる事、小鳥の危険を排除する事を主な目的とした部なんですよ。」
ちなみに臣は今、危険排除の方で活動中なのだと美羅が説明する。
小鳥に対して過保護なのは、尊だけではなかったらしい。
暴君が溺愛する弟君は、友人にもたいそう大事にされているようだ。
学校で一体、何の危険があるというんだか。
「危険排除って…小鳥、どうかしたのか?」
「中等部の男子に、裏庭に呼び出されたんだよー。」
「おいおい!それは割と本気で危険な状況じゃないか!?」
たいした事ではないだろうと気軽に聞いたのだが、予想外に物騒な返答が来て焦る。
虐めの標的にされ、暴力でも振るわれるのかと心配すれば、そういうのではないですと美羅が困り顔で否定する。
「そいいうのではないって…」
じゃあどういうのなんだ?と続けようとした所で、後ろから控えめにシャツの裾を引っ張られた。
振り向くと、助のシャツを握る小鳥と、その隣に臣が立っている。
「…悪い。遅くなった。」
いつも通り、ぼんやりとした顔、ぼんやりとした声で助を待たせた事を謝罪する小鳥。
その、のんびりとした様子からは、とてもついさっきまで危険なめにあっていたような感じはしない。
「ことりーんっ!!大丈夫だった??」
ずっと助の腕に引っ付いていたアクアが、助から離れて小鳥に抱きつく。
「あぁ。何ともなかった。」
「こらこら嘘つけ。何ともなくなかっただろーが。」
臣がすぐさま否定して、たしなめるように小鳥の頭を軽く小突く。
やはり危ないめにはあっていたようだが、一体何があったのだろうか。
「…嘘じゃない。防犯ブザー鳴らしたらびっくりして逃げていった。だから、何もされなかっただろう?」
「防犯ブザー鳴らす必要があるような事されたんじゃないの。臣、何があったの?」
美羅が小鳥の頭を撫でながら呆れつつも心配そうに呟き、小鳥では埒があかないと、説明を臣に求めた。
「やっぱ告白だった。んで、小鳥が断ったら相手が思い詰めたみたいな顔して、無理矢理小鳥をどっか連れてこうとした。」
臣の話を聞いて、助の思考が驚きで一瞬停止する。
無理矢理連れ去られそうになったという内容にも驚いた。だが、それよりも…
告白?
「…小鳥が呼び出されたのって、中等部の男子じゃなかったのか?」
戸惑いながら尋ねると、目の前の小鳥がコクリと頷く。
「小鳥は、男女問わずモテますよ。主に危ない人にって所がかなり残念なんですけど。」
「ことりんの可愛さは性別を超越してるからねぇ。」
しみじみと語る臣とアクア。
男女問わずって…性別を超越した可愛さって…ダメだ。思考が追い付かない。
「小鳥、今日呼び出された相手の名前はわかる?」
美羅に聞かれて、小鳥はゆっくりと首を横に振る。相手からは、3年生という事しか聞かされなかったらしい。
「まぁ!名乗りもしないで告白するなんて失礼な男。…臣、顔は覚えた?」
「当然。」
不敵に笑って答えた臣に、「さすがっ!」と、美羅とアクアが声を揃える。
「明日、中等部の名簿からクラスと名前割り出そう。」
「そうね。困ったお兄さんには、早めの対処が必要よね。」
「きちんと反省してもらわないとっ!」
助を置き去りにしたまま、小鳥部3人は笑顔で話を進めていく。
「反省してもらうって…お前ら、何する気だ?」
明るい表情に反して、何やら過激な内容の会話に思わず問いかけると、たいした事じゃありませんとサラリ美羅が答える。
「詳しく知りたいー?」
それはそれは晴れやかな笑顔で、逆にアクアから問いかけられ、迷うことなく結構ですと返事をした。
・・・小鳥部は、思いの外激しい部活なようだ。
帰り道、他に話題もなかったので、小鳥に小鳥部について色々聞いてみた。
それによると、小鳥が誰かに呼び出された場合、必ず部員3人のうちの誰かが少し離れた所から見守り、危なくなったら助けに入る手筈になっているのだそうだ。
臣も美羅もアクアも、幼い頃から武術を習っていて戦闘力はかなり高い。護衛としては頼もしい限りだろう。
呼び出しの用件はたいていが告白。断ったら、暴走した相手に襲われるというのがお決まりのパターンらしい。
「そんな高確率で襲われるなら、呼び出されても無視すりゃいいのに。」
「皆がそういう事するわけじゃない。無視するのは相手に失礼だろう?」
兄とは違い、小鳥はずいぶんと律儀な性格のようだ。
「しっかし、何でそんな危ない人にばっか目をつけられるんだかなぁ。」
「…それは俺が知りたい。」
ぼんやりとした無表情を心なしか困ったように歪め、切実そうに小鳥が呟く。
本当に不思議だ。危ない人はともかく、尊やアクア達も相当小鳥の事を気に入っている。この子の何が、それ程までに人を惹き付けるのだろう。
そんな事を考えながら、隣を歩く小さな雀色の頭を見下ろしていると、「あ。」と小さく声をあげ、小鳥が手のひらを空に向かってかざした。
「…雨だ。」
次の瞬間には、いっきに大粒の雨が空からこぼれだす。
「うわ!小鳥、走れっ!」
助は小鳥観察を中断して、ぼんやりしたままの小鳥の手をとり、清峰家に向かって走り出した。
本格的に降りだした雨に打たれ、家に着く頃には二人とも結構濡れてしまっていた。
「リビングで待っててくれ。」
小鳥はパタパタと脱衣所に走っていくと、バスタオルを2枚持って戻ってきた。
「ありがとな。」
渡されたタオルで髪を拭き、服についた雫を吸いとる。
助は水を弾く素材の薄手のパーカーを羽織っていたので、服はそれほど濡れずにすんだ。
一方、小鳥は全身見事にびしょ濡れだ。制服のシャツが水を吸い、肌が透けて見えている。
靴下も濡れたらしく脱衣所で脱いできたのか、膝たけの制服のスボンからほっそりとした足が剥き出しになっていた。
「ほら小鳥、もっとちゃんと拭かないと風邪ひくぞ。やってやるからタオル貸せ。」
小鳥は素直に近寄ってきて、自分が使っていたタオルを助に渡す。
先から雫が滴る、濡れてぺしゃんこになった雀色の髪を丁寧に拭ってやる。
小鳥はぼんやりと俯き、大人しくされるがままだ。
改めて近くでじっくり見ると、小鳥は助が思っていたよりもずいぶんと愛らしい少年だった事に気付いた。
くっきりとした二重の瞼、長い睫毛。派手な華やかさはないが、一つ一つのパーツはとても整っている。
色素が薄く、髪も睫毛も瞳も雀色で柔らかな印象だ。
肌の色もとても白い。アクアや美羅も色白だが、白さの質が違う。二人は、雪みたいに明るい白色、小鳥は透けるような、儚い感じのする白だと思う。
小鳥の可愛さは、気付いてしまうと、思わず目で追いかけたくなるような…そんな癖になる可愛さだ。
ぼんやりとした言動と相まって、何やら危うい魅力がある。
成る程、これは確かに無理矢理手に入れたいなどと考える邪なやからを引き寄せそうだ。
どこか浮世離れした感じの危うさが、嗜虐心をくすぐってしまうのかもしれない。
もちろん助にその気は全くない。
庇護欲ならおおいにくすぐられているのだが。
「…助?」
じっと見られている事に気付いた小鳥が、不思議そうに助の顔を見上げる。
尊や小鳥部メンバーの話からして、しょっちゅう危ないめにあっているようなのに、驚くほど警戒心がない。
助は尊の友人といえども、今まで小鳥とはそれほど接点がなかった人間だ。
そんな人間を躊躇なく家に招き入れ、濡れて透けた服で生足を惜しげもなくさらけ出し、大人しくされるがまま。
どこまでも無防備だ。危なっかしくて放っておけない。
髪を拭く手を止めて、とりあえず着替えるよう小鳥に指示を出した。
部屋着に着替えて戻ってきた小鳥の髪を改めて拭きながら、ちょっとお説教してやることにする。
「なあ小鳥。お前、もう少し警戒心を持てよ?尊の友達だからって、よく知らない俺みたいなのを家にあげて二人きりになるな。あと、無防備に肌を露出したりしちゃダメだ。」
まだ成長途中の華奢な小鳥の体。助なら、片手で簡単に動きを封じてしまえるだろう。
「俺が危ない人で、もしお前の事襲ったりしたらどうするんだ?」
ポンポンと軽く頭を手のひらで叩き言い聞かせると、小鳥が不思議そうに首を傾げる。
「助は大丈夫だろう?」
助は絶対に俺に危害を加えたりしない。
そうきっぱり小鳥が言い切る。
助としては、よく知らない自分相手にそんな言葉ををさらっと口にしてしまう所が、やはり危なっかしくて仕方がない。
「何でそう言い切れるんだ。お前、俺の事よく知らないだろう?」
「確かに助の事はあまり知らない。でも、尊の事はよく知ってる。だから問題ない。」
「どういうことだ?」
意味を理解しかねて尋ねれば、澄んだ雀色の瞳で小鳥がまっすぐ助の目を見る。
「あのわがまま暴君の尊と長年友達を続けられるなんて、よほどのお人好しじゃなきゃ無理だ。そんな人間が俺に悪さをするとは思えない。」
信頼するには十分な理由だろう?
そう穏やかに尋ねられ、思わず助は吹き出した。
「確かになっ!」
「それに…自分で言うのもどうかと思うが、尊は俺を溺愛しているし、かなり過保護だろう?信頼してる人間じゃなきゃ、俺の事を頼んだりはしない。尊が信頼してる人を、俺が警戒する必要なんてない。」
少し話しただけでも、小鳥の価値観はどこまでも尊一色な事が伝わってくる。
この子の世界は、どんなことでも尊という絶対的な王様を中心にまわっているのだ。
尊の事を話す時、普段はぼーっと無表情な小鳥の顔が、ほんのりと笑顔になる。
尊を慕う気持ちが溢れた、優しい顔をしている。
「小鳥は、尊が大好きなんだな。」
乾いて、ふわふわとした触り心地を取り戻した小鳥の髪を撫でながら思う。
確かにこれだけひたむきに気持ちを向けられれば、あの暴君が溺愛するのも納得だ。
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