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暴君の失態3
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今日は尊が食事会で遅くなるので、所属している剣道部の活動を終えた後に臣が遊びに来てくれた。
二人で夕飯を済まし、小鳥のベッドの上で背中合わせに座りくつろいでいる。
臣の背中は広く逞しくて安定感抜群だ。
決して大柄なわけではないのに、しっかり筋肉がついた体は男らしく小鳥とは全然違う。
小鳥は遠慮なくダラリと力を抜いて背中を臣に預けながら、膝の上に置いたスケッチブックに絵を描いていた。
背もたれのように体重を掛けられても、臣は難なく小鳥を支え読書に勤しんでいる。
心地好い静けさの中、もくもくと絵を描いていると、臣の携帯からピロンと軽快な着信音が聞こえた。
「美羅からだ…習い事が終わったらしい。帰りに車で拾ってくれるって。」
届いたlineを確認すると、臣が読んでいた本を閉じて首を捻ってこちらを向く。
美羅は今日ピアノの稽古だったらしい。
時間はすでに21時をまわっている。アクアもよく遅くまで習い事をしているし、お嬢様というのは本当に大変だ。
「あと、どのくらいで着くんだ?」
首を反らし、小鳥よりも少し高い位置にある臣の顔を見上げる。
「30分くらいだろ。その間に小鳥は風呂に入ってくるといい。」
「…風呂?別に、臣が帰ってからで良い。」
もう少しだらだらしていたくて、臣の背中をずるずると滑り落ちベッド横になる。
「良くない。俺が帰ったら、誰が小鳥の髪を乾かすんだ。」
「……。」
尊をはじめとして、どうも小鳥の周りの人間は世話焼きが多い。
小さな子供ではないのだから、小鳥でもそれくらいは自分で出来る。(いつもは尊にしてもらっているけれど)
というか、髪なんて放っておけば乾くのだから問題ない。
「自分で出来るとか思ってるだろ…言っとくけど、自然乾燥じゃダメだからな。まだ夜は冷えるし、ちゃんとドライヤー使わないと風邪ひくぞ。」
「……。」
思っていたまんまの事を臣に指摘され、小鳥は反論の言葉を失う。
「ほら、行ってこい。」
動かず寝転がったままの小鳥に臣が苦笑する。
しぶしぶ両腕を上に向かって伸ばすと、臣が引っ張り起こしてくれた。
「…入ってくる。」
パジャマを持って、小鳥は大人しく浴室へ向かった。
ほかほかと湯気をたてながらリビングに行くと、既にドライヤーを持って待機していた臣に促され、ソファーに座る。
「じゃ、乾かすぞー。」
ドライヤーの温風をあてながら、時おり指を差し込んで、臣が丁寧に髪を乾かしていく。
風に煽られてふわふわと揺れる自分の髪をぼんやりと眺めていると、だんだんと眠たくなってきた。
小鳥は、人に髪を触られると気持ちよくて眠たくなる。
うとうとしつつ、ふとテーブルに視線を向ければ、置きっぱなしだった携帯がチカチカと点灯していた。
手を伸ばして携帯を取り確認すると、助からlineが来ていた。
「よし!こんなもんか。」
lineの内容を確認していると、満足のいく状態になったのか、臣がドライヤーを止めて帰る準備を始める。
「俺はそろそろ迎えが来るけど、尊さんまだ帰ってこなさそうか?」
「助からlineが来てた。尊がかなり酔ってて、タクシーで送ってきてくれるみたいだ。22時頃には帰ってこられるらしい。」
「尊さんが?そんな酔うなんて珍しいな。」
驚く助に小鳥も頷く。
時々家で飲み会が開催されるが、小鳥は尊が酔った所を見たことがない。
どれだけ飲んでも普段と何ら変わらない姿しか見ていないので、酔った尊というのが想像できなかった。
「あ、美羅から電話だ。」
そうこうしているうちに、臣の迎えが来たようで。
一言二言話してすぐに電話を終えると、臣が荷物を持って立ち上がる。
「じゃあ帰るな。」
「下まで、送ってく。」
玄関で別れようとする臣にそう申し出るも、
「いや、危ないからここで良い。」
「……。」
マンションからほんの数歩離れるだけなのに、一体何の危険があると言うのか。
何やらついこないだも似たような事を考えたな、などと思いつつ、小鳥は食い下がった。
「幸も連れていくから危なくない。」
「ピッ!」
肩に乗せていた幸が、タイミング良く鳴き声をあげる。
「いやいや、なんでそうなる。幸はどう考えても戦力外だろ。」
「そんなこともないぞ?」
「?」
臣が不思議そうな顔をするので、説明を加える。
「尊が、目潰しを覚えさせた。攻撃力はなかなかのものだと思う。」
「ピッ!!」
小指で幸の頭部を撫でながらそう言うと、幸が誇らしげに胸を反らし元気に鳴く。
「あの人何てこと覚えさせてんだっ!」
臣が全力で突っ込んだ。
幸の攻撃力が認められたからかどうかは分からないが、結局臣は小鳥が下まで見送ることを了承してくれた。
「まあ、美羅も小鳥の顔が見られたら喜ぶだろうしな。」
案外あっさりと同行を許してくれた臣に、やはり過保護と言えども尊よりはマシなんだなとしみじみ思う。
「あら小鳥!見送りに来てくれたの?」
マンションの下には既に迎えの車が停まっていて、小鳥達が目にはいると、美羅が車から降りてこちらに歩み寄る。
「美羅、ピアノお疲れ様。」
「ありがと。」
労いの言葉をかけると、美羅が穏やかに笑う。
そのまま三人で少し話していると、側で控えていた美羅の家の運転手に、時間も遅いのでそろそろ帰ったほうが良いと控えめに声を掛けられた。
「そうね、そろそろ帰りましょうか。」
「だな。」
そう言う美羅と臣に、じゃあまた、と挨拶をしようとしたのだが、二人は何故か車ではなく小鳥のマンションへ向かって歩き出す。
「……?」
「小鳥?行くわよ?」
その場に立ちっぱなしで首を傾げていると、振り返った美羅に呼ばれる。
「…帰るんじゃ、なかったのか??」
「帰るわよ?」
「…??」
帰るのに、どうして小鳥のマンションへ引き返そうとしているのだろう。
「もう帰るから、その前に小鳥を部屋まで送り届けないといけないだろ。」
臣の言葉に、美羅がうんうんと頷く。
「……。」
小鳥が下まで見送りに出ることを臣があっさり許したのは、最初からこうするつもりでいたかららしい。
しかも、美羅も小鳥を部屋まで連れていくのは当然のことだと認識しているようで・・・・・
前言撤回。
やはり友人たちも、尊に負けず劣らず過保護だった。
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