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暴君の失態7
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玄関の閉まる音で尊が出掛けたのを察し、小鳥はゆっくりとため息をついた。
ラグの上に寝転がり、ぼんやりと天井を眺める。
何というか、少し浮かれていた自分が馬鹿みたいだ。
昨日尊にたくさん触れられて、小鳥は嬉しかった。
尊は酔っていたし、あの行為に深い意味があったなんて、尊が恋愛感情を持って小鳥に触れてくれたなんて、そんな過度な期待はしていなかった。
勢いだったとか、さらに悪ければ気の迷いだったとか…そういう事はちゃんと想定していた。
そうだとしても、嬉しかったのに。
まさか、覚えていないとは。
春になれば、尊は毎年荒れる。
尊は普段も決して清らかなお付き合いなんてしていないが、春は本当に手当たりしだい遊び回ってどうしようもない。
人肌を求めるみたいに、とにかく色んな人間と関係を持つ。
恋愛なんてくだらないと言い張るくせに、小鳥には、他人からの愛情を必死に求めているようにしか見えなかった。
本気の気持ちは受け入れられないから、体だけの薄っぺらい愛を集めてまわる。
集めても集めても満たされなくて、色んな相手に手を出していく。
端から見れば不毛な行為かもしれないが、きっと今の尊には必要な事なのだ。
出来るなら尊には、小鳥以外の誰かと例え体だけだとしても深い関係を持たないで欲しいと思う。
けれど、小鳥ではまだ尊の欲を満たすことは出来ないと理解している。
少なくとも高校生になるまでは、小鳥は尊の守備範囲外だ。
だから、尊が他の誰かと肌を重ねていても、それはしょうがない事なのだ。
小鳥では無理なのだから仕方がない。
体で繋がる事は出来なくても、今は、小鳥にしか出来ないことで尊の心を満たしていけば良い。
そう、気持ちに折り合いをつけていた。
でも昨日尊は小鳥に触れて、確かに欲情していた。
あんな風に余裕のない触り方をされたのは初めてだった。
いつもより乱暴だったけれど、それだけ求められているようで嬉しかった。
今までにないくらい、ドキドキと胸が高鳴った。
「…仕方がないなんて、もう思えない…。」
近くに置いてあった殿下を抱き寄せ、ふかふかの毛で覆われた腹の辺りに顔を埋めながら、ポツリと呟く。
目を閉じると、昨日の夜の出来事が頭の中で鮮明に蘇る。
いつもと違う、欲情した尊の姿。
今まで何も知らなかった自分が悔しくて仕方ない。
小鳥は昨日まで知らなかった尊のあんな姿を、今まで何人もの人間が目にしてきた。
あんな風に尊に触れられたり、キスされたりした人間が何人もいる。
「…他の人間とセックスしてても良いなんて、知らなかったから言えたんだ…」
昨日、小鳥は知ってしまった。
“兄”ではない尊の姿を。
セックスをする時、尊が相手にどんな風に触れるのか。
どんな瞳で相手を見るのか。
知ってしまった今は、悔しくて、悔しくて。
この感情を、小鳥はよく知っている。
これは、嫉妬だ。
尊が抱いてきた数多くの人間、その全てに対し、小鳥はどうしようもない程に嫉妬している。
これからも先、少なくとも小鳥が高校生になるまでは、尊が色んな相手と関係を持つのをとめる事はできない。
小鳥が、弟だから…まだ、子供だから。
尊は小鳥には手を出してくれない。
どうして、自分は大人じゃないんだろう。
早く、大人になりたい。
そんな考えばかりがグルグルとまわり、頭の中を埋め尽くす。
酔った勢いだろうが、気の迷いだろうが、何だって良かった。
尊が、小鳥を少しでも性の対象として意識してくれた事実があれば、こんなにも強い嫉妬に捕らわれることはなかったかもしれない。
けれど、尊は昨日のことを覚えていない。
夢だと勘違いしているなんてこともなさそうだった。
小鳥が昨日の話題を持ち出しても、尊は顔色ひとつ変えなかったのだから、本当になんの心当たりもなかったのだろう。
小鳥は酔った事がないのでよく分からないが、酒に強い尊があれだけのことをしておいてその記憶をすっぽり無くすだろうか。
曖昧でも、少しくらい記憶の断片があるのではないかと思う。
そう考えていくと、昨日の尊は、小鳥ではない誰かを抱いているのだと勘違いしていたんじゃないかという結論に至った。
きっと、小鳥を小鳥だと認識せずに触れていたのだ。
思い出してみれば、抱き合っている間に1度も名前を呼ばれなかった。
悔しいやら、腹立たしいやら。
今はチョット、このもやもやした気持ちを治める方法が見つからない・・・・・
アクアが来るのを待ちながら、殿下を抱き締めこれからどうやって尊に接すれば良いかひたすら考えていたのだが・・・・・
「よし、家出しようことりん!」
遊びに来たアクアに、昨日の出来事と、それについて尊が出掛けてから一人で考えていた胸のうちを話すと、アクアは開口一番そう言った。
「…家出?」
「そう!ちょっと私は怒っちゃったよ!!」
形の良い眉をキッと釣り上げ、アクアが両手で小鳥の手を包む。
「今回のは完全に尊さんが悪いよ!」
「…だから、家出するのか?」
「だって今ことりん、尊さんと話したくないでしょ?」
「……。」
「というか、話して謝られるの、嫌なんでしょう??」
「……。」
本当に、アクアと自分は似ている。小鳥が考えていることを簡単に読み取ってしまう。
仕事から帰ってくれば、尊は小鳥が怒っている理由…昨日何があったのかを尋ねるだろう。
そして小鳥が話せば、きっと尊は謝るだろう。
アクアの言う通り、小鳥は尊に謝られるのが嫌だった。
謝られるのは、悲しい。
謝るという行為は、小鳥を抱いた事を後悔していると意思表示されるみたいに思える。
それに今はまだ、謝られて全部そこで終わらせることが出来るほど気持ちを整理できていない。
「…ちょっとだけ、家出する。」
「うん!家に泊まりにおいでよ!」
立ち上がって宣言すると、アクアが笑って小鳥に抱きつく。
「そうだっ!おっくんとみぃちゃんも呼んで、パジャマパーティーしよう!!」
「…パジャマ、…パーティー??」
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