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暴君の失態10
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淹れてもらったミルクティーを飲みながらしばらくぼんやりしていると、白兎の格好をしたアクアが試着室から出てきた。
「ピンクの方はちょっと脱いだり着たりが大変そうだから、こっちにするよー!」
兎耳のフードがついた白いパーカーと短パンのセット。短パンには、丸い兎のしっぽがくっついている。
全体的に肌触りの良いもこもことした素材で出来たそのパジャマは、思っていた通りアクアにとても似合っていた。
「かわ…」
「「きゃー!!!アクアちゃん可愛い!可愛い」」
可愛いと褒めようとした小鳥の声は、双子の歓声に見事に打ち消された。
「今のままでもとっても可愛いけど、その服にはきっと三編みが合うと思うの!」
「そうね!三編み最高!是非この兎さんのゴムでお願いっ!!」
アクアを椅子に座らせた薫がいそいそと三編みを始め、翠はそんな薫にプラスチックの兎のマスコットが付いたゴムを手渡した。
「さあ、次は小鳥ちゃんの番ね!何にする?」
翠にキラキラと期待のこもった視線でパジャマの選択を迫られる。
「……。」
アクアのように、とくに何の動物にするかも考えていなかった小鳥は、目の前に積まれたパジャマをぼんやりと眺めた。
そもそも、小鳥は自分で服を選ぶという経験がほとんどない。
たいてい尊に任せているので、急に好きな服を選べと言われても対応できない。
「ことりんは、鳥さんとかどう?だってせっかく名前が小鳥だし!」
眺めるばかりで動かない小鳥に、アクアが助け船を出してくれる。
「あらごめんなさい、鳥のパジャマはないのよー。」
しかし、あえなく鳥案は却下となった。
「…じゃあ、羊にする。」
小鳥は、フードの部分に巻き角が付いたもふもふとした素材のトレーナーと、同じ生地で出来た膝丈のズボンを手に取った。
「ことりん、羊さん好きだったっけ?」
「…いや、特には。動物なら熊が好きだ。」
「「じゃあ何で羊??」」
アクアの問いに答えると、双子が揃って首を捻る。
「…だって、何だか良く眠れそうだろう?」
眠れない時は頭の中で羊を数えるのだと、昔尊に教わった。
それ以来、小鳥の中では何となく羊と安眠が結び付いている。
そう3人に説明していると、無意識のうちに、頭の中で羊のカウントが始まった。
羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹・・・・-
カウントと同時に、もふもふの毛をまとった羊がピョンピョンと柵を飛び越える光景が思い浮かぶ。
「…何か、眠たくなってきた…から、寝る。」
ふわわと大きなあくびが出て、小鳥はソファアに寝転び小さく丸まった。
「えっ!?今このタイミングで!?」
「小鳥ちゃん、スーパーマイペース!!」
「…だって、眠たい…。」
最近良く眠れていなかったし、昨日なんて色々あったせいでほとんど寝ていない。
話ながらも、ゆっくりと瞼が閉じていく。
「待ってー!!せめて羊パジャマ着てから寝て!!」
「そうよっ!そして写真を撮らせてー!」
「……zzz」
「「もう寝ちゃったの!!?」」
双子が何か騒いでいたが、既に小鳥の意識はほとんど夢の中で。
「おやすみことりん!」
完全に意識がなくなる直前、アクアが笑って頭を撫でてくれたような気がした。
*******
「二人ともいらっしゃいっ!」
「…いらっしゃい。」
アクアからパジャマパーティーの誘いを受け、臣は美羅と一緒に龍宮邸へとやって来た。
玄関まで出迎えてくれた小鳥とアクアは、もうパジャマ姿だ。
アクアが兎、小鳥が羊らしき動物に扮していて二人ともとても愛らしい。
小鳥が尊と喧嘩をして、しかも家出までしたと聞いて心配だったが、臣は小鳥から言ってこなければ喧嘩の理由などは聞かないでおこうと思う。
隣に立つ美羅も、小鳥に何を尋ねるわけでもなくいつも通り振る舞っていて、相談したわけではないがきっと彼女も同じ考えなのだと感じた。
「みぃちゃんは黒猫さんにしたんだね!」
可愛い可愛いとはしゃいで、アクアが美羅に抱き付く。
ここまで車で送ってもらったので、美羅と臣も実家を出る前にパジャマを着てきた。
「…臣は、…白豹?」
じーっとこちらを見つめながら小鳥に聞かれ、臣は頷いた。
「あぁ。美羅が猫科で揃えたいって言うから。」
触り心地の良い生地で出来た白豹の柄のパジャマ。尻尾と耳には特に力が入れられているようで、まるで本物の豹ような手触りだ。
小鳥はそれがとても気に入ったようで、耳が付いているフードを臣に被せると、背伸びをして耳の部分に手を伸ばした。
「……可愛い。」
キラキラと目を輝かせ、豹の耳を撫でる羊姿の小鳥。
臣からすれば、そんな小鳥の方が何倍も可愛いと思う。
身長差のせいで撫でにくそうだったので少しかがんでやると、小鳥は顔を近付けて豹耳に頬を擦り寄せる。
その行動に何やら庇護欲を刺激され、臣は小鳥の頭を撫でた。
「ちょっと!臣ばっかりずるい!!」
臣ばかりが小鳥に構っていたのが気に入らなかったらしく、美羅がガバリと背後から小鳥に抱きついた。
「…美羅の、ネコも可愛い。」
振り返った小鳥が今度は美羅のパジャマに付いたネコ耳を撫でる。
臣にだって、人並みに独占欲はある。
恋人である美羅が自分以外の異性とあからさまに親しげにしていれば嫉妬する。
ただしそれは、相手が小鳥の場合を除いてだ。
美羅が小鳥と抱き合っていても、何の不快感も抱かない。むしろ、目の前の光景を微笑ましいと思う。
清峰小鳥という人間は、何というか、本当に不思議な存在だ。
アクアの部屋へと移動すると、すっかりお泊まり会の準備が整っていた。
部屋の中にはお菓子やゲーム、人数分の布団。それから・・・・・
「ピッ!ピピッ!」
「幸も連れてきてたのか。」
窓際にぶら下げられた鳥籠の中で、幸が元気に鳴いていた。
小鳥が鳥籠から出してやると、幸は定位置である小鳥の肩の上にとまる。
「…置いていくのは、可哀想だったから。」
「そうか。」
確かに幸は小鳥にとても懐いているし、小鳥も幸をとても可愛がっている。
泊まりで家を離れるのなら、連れてくるのは納得だ。
「幸はまぁ分かるけど…その子も連れてきてたのね。」
苦笑しながらそう言った美羅の視線の先には、ソファーの中央でずっしりとした存在感を放つ殿下。
「……何か、離れがたくて。」
縁から貰った、小鳥いわく尊に似た巨大なテディベアは、かなり小鳥のお気に入りらしい。
小鳥が、ぎゅうぎゅうと殿下を抱き締める。
羊が熊を抱き締めるという、奇妙な状況が出来上がった。
「あー…何でだろ。変な組合せなのにすごい癒される。」
臣の呟きに、美羅とアクアも大きく頷いて。
羊のフードに覆われた小鳥の頭を皆で撫でた。
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