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5話 魔王の過去と罰
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俺は妖精王と、人族の母の間に生まれた混血らしい
母は俺を抱き締めながら教えてくれた
混血だから俺は村人達から迫害されているのだと、母は涙を流して何度も謝った
だから俺は、母を泣かせる村人達と俺に流れる魔族の血を憎んだ
「ヴォールは優しいね」
俺はその言葉に、訝しげに彼女を見た
ヴォールとは俺の名前で、意味は幸せ
母が幸せになって欲しいと願ってつけた名前だった
「優しくなんてない」
ぶっきらぼうにこたえると、なにがおかしいか分からないが、くすくすと笑いだす
「優しいわ。この獣だって貴方が村人の為にとってきたんでしょ?」
「母さんにとってきたんだ」
「とか言って、捨てるのが勿体ないって私達に分けてくれるじゃない」
「捨てたら、命をくれた獣が可哀想だからだ!」
「あのねぇ。獲物に対して、命をくれたなんて普通思わないわ。そういうところが優しいのよ」
彼女は唯一俺と母に普通に接してくれる変わり者だ
だが、彼女には救われていた
人族の中にも良い人がいると確信できるからだ
「あの子は優しい子ね」
ある夜、ふと母が呟いた
「あの子は貴方の優しさをきちんと見ている。そういう人は悲しいことにあまりいないわ。…大事にしなさいね」
元々身体が弱く、最近寝ていることが多かった母が珍しく起きてきて微笑んだ
「貴方には本当に悪いことをしたと思っているわ。…でもね、私、あの人と出逢って貴方を授かったこと、少しも後悔してないのよ。もしあの人と出逢った時まで時間を戻せたとしても、また同じ事をすると思うの」
ごめんなさいね。と笑った母が、痩せて頬がこけているのにとても美しく見えた
そして次の日、どんなに起こしても母は目を覚まさなかった…
その日はずっと雨が降っていた
妖精達は、妖精王が泣いているのだと俺に教えてくれた
想い人が死んだと泣き続けているのだと…
俺は悲しむと同時に苛立った
母をこんな目に合わせといて、なにが想い人だ!
村の一員である母が亡くなったのに、誰も葬儀に顔を出さない
呼んだ神父も始終嫌そうな顔をしており、さっさと祈りを捧げると、まだ埋めてもいないのに教会に帰ってしまった
残ったのは俺と彼女だけ…
2人で泣きながら母を埋め、ぼんやりと母の墓を見る
「こんな時に言うのはズルいと思うけど…私、貴方が好き。貴方の傍にいさせて」
そっと俺の手を握り、彼女は顔を赤くして言った
俺は、彼女の手を握り返した
**********
両想いになったあの日から、俺達はずっと一緒にいた
突然村人達は大反対
その様子に温厚な彼女もブチギレて、2人で村を出た
そして森の中に小屋を建て、畑をつくり、少しずつ生活を整えていく
その生活は苦しいが、暖かかった
「また暗い顔して…。ほら笑って!どんなに辛くとも、笑えばそんな気持ち、どっかに飛んでいくわ!」
どんなに辛くとも、笑顔でいれば心が明るくなるのだと彼女が教えてくれた
「ねぇ、畑には何を植えようか?明日はなにが食べたい?」
明日のことを話す…そんなことで、心が暖かく幸せを感じるのだと知った
「綺麗な赤い空…」
帰り道、夕焼けを見て彼女は呟いた
その時、夕焼けがとても美しいことに初めて気づいた
彼女には色々な事を教わったし、気づかされた…
そして…その日はやってきた
狩りから戻ると、2人で建てた小屋がゴウゴウと炎を纏っており、彼女が村人達に取り押さえられていた
村人達に銃を突きつけられながらも、俺が帰ってきたのに気付いた彼女は、涙を流しながら叫ぶ
「逃げてぇ!!!」
「ヤメロォォ!!!」
慌てて駆け出すも、村人達に捕まり彼女の元まで辿り着けない
必死に伸ばしても手が届かない
彼女は最期に、絶望と殺意を教えて亡くなった
**********
村人達が俺達を襲ったのは、今まで受けていた妖精達の加護を受けられなくなったからだった
どうやら俺が妖精王の息子だった事もあり、豊かな土地を約束されていたようだ
しかし、村を出た事で作物が育たなくなり、俺が獲ってこなくなったから今までのように毎日肉も食べられない
ひもじさから村を出て行った俺と、連れ出した彼女を逆恨みしたそうだ
…なんだよそれ。自業自得じゃないか
今まで散々忌み嫌ってきたくせに、居なくなった途端にこれか?なんて……なんて生きる価値のない屑
なんで俺はこんなゴミどもを助けてきたのだろう??
それからはあっという間だった
村を燃やされた小屋と同じように燃やし尽くし、奴等の血で真っ赤に染まった俺は、粗大ゴミをそのままに、ただふらふらと歩き続けた
俺は全てに絶望し、俺自身を含めて憎んでいた
彼女を殺した人族を、助けられなかった俺を、彼女がいないこの世界を…
「あ"あ"ぁぁぁぁぁぁぁぁ」
いつまで歩いたのだろうか?ふと、泣き叫ぶ声に気づきそっちに歩を進める
そこで俺は、俺と同じように血に濡れた青年と出逢った
「ひでぇ声」
馬鹿にすると、青年は涙を拭いて俺を見る
「酷い顔」
その言葉に、俺はずっと涙を流していた事に気付いた
それからは常に一緒にいた
青年は名前が無かったから、酷い声で泣いていたこともありノイズと適当に付けて呼んだ
それがいつの間にか名前として定着していたのには驚いた
少し悪いことをしたと思っている
2人だったのが、ノイズがクウリュートを拾ってきたことで3人になり、気がついたら仲間が大勢出来て、人族から魔王と呼ばれるようになっていた
だからこれを機に名前を捨てて魔王と名乗った
名前を捨てたことにノイズは不満げだったが、こんな名前、もうどうでもいい
そして城を…国を創った
気が向けば人族を殺し、気が向けば世界をノイズとクウリュートを連れて旅をする
とても楽しかった
なのに、俺はふと我に返ったように思ってしまう
なんで俺は生きているんだ?
酷い虚無感に襲われて、気がついたら周りを壊していた
ノイズは言った
恐らく俺達魔人は、何か1つ異常に執着しているものがあり、それが満たされないと俺のように理性を失ってしまうのだと
「お前の執着は…その殺された彼女か、愛されることか…。どっちか分かるか?」
首を振る俺に、ノイズは顔を赤くして手を取った
「こんな時に言うのはズルイと思うが…俺、お前が好き。お前の傍にいさせてほしい」
ー「こんな時に言うのはズルいと思うけど…私、貴方が好き。貴方の傍にいさせて」ー
彼女と同じ告白を聞いた瞬間、俺の中のストッパーが完全に外れた
そして分かった。俺は彼女に執着していたんだと…
だからヴォールという名前もどうでもよくなったのだ
それから俺は滅茶苦茶だった
ただ面影が似ていたから姫を攫い、彼女ではないと分かっていたのに愛した
「その姫に大分執着しているが、その姫は本当に似ているのか?俺はお前の愛した人と逢ったことがないが、話はよく聞いていたから分かる。その姫の何が似ていたのか分からないが、その姫では代わりになんかならない!いい加減目を覚ませ!」
必死に訴えていたノイズの言葉にも耳を貸さず、ノイズを捨てた
ノイズが仲間に執着していて、捨てたら俺のように狂うと分かっていたのに、酷い言葉と共に城から追い出した
そして後は歴史に残っている通り、ノイズの手引きによって現れた勇者に俺は殺された
だが心は穏やかだった
やっと解放されたんだ…漸く会える…。だが
「死んで楽になれると思ったら大間違いだ。喜べ、これからお前に罰を与える」
黒いローブにフードを深くかぶった青年が許さなかった
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