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結局何の話しかよく分からなかったなと‥急に瞼が重くなって瞳を閉じた。
閉じた瞼を親指がなぞり、くすぐったさに薄く瞼を開くとタイミングを狙ったかのように声が落ちてきた。
「‥渡したいと思った」
「‥え?」
睡魔に浚われそうになった俺の頭は上手くついて行かず掠れた声で意味を問う。
「俺の幸せ‥渡したいと思った」
「‥?」
何の報告?
それって俺にする事なのか?
「永久‥知ってる?
キミは泣きそうになると下唇を噛む癖がある」
「‥え?」
「綺麗だと思ったよ。
嘘か本当かも分からないような安っぽい涙を流して線香をあげる大人なんかよりずっと‥ずっとね」
「‥な‥に」
俺を見つめる目は真剣だった。
言葉は真っ直ぐ心臓に届くような気がして、鷲掴みにされたような、息もできないような‥苦しくて鼻の奥がツンとする‥
「目頭に涙を溜めるでもなく鼻先を赤くするでもなく、ただ俯いて‥悲しそうな顔一つせずに瞬きだけを繰り返す」
「‥」
泣く事は無かった。
両親の遺体を見たあの日、塞ぎきれないモノを塞ごうと両手で目を覆ったあの時‥心も固く堅く塞いだ。
「人形みたいに立つキミに腐った大人がある事ない事出任せを言っていたね」
涙一つ流しやしない
親不幸者だ
死んで喜んでるんじゃないのか
車に細工をしたって
見かけによらず暴力的な子
ひそひそと話す声は本人達が思っているよりも遠くまで響き、声のトーンとは裏腹に知らない誰かにも聞かせたかったのかもしれない。
「‥俺‥おれはっ‥」
「分かってる。
本当は分かってるんだ。あの大人達だって‥分かってて言ってる。永久は優しい子なんだと‥爺さんと婆さんも言っていたよ」
「っ‥」
「ただ‥何も知らない人はそれを鵜呑みにするんだ」
「ッ‥‥っ゙‥」
目元に力を入れて‥眉間に皺が寄ったまま見つめ続ける。いつの間にか強く噛んでいた下唇はぶり返したように血の味を伝えた。
痛みを‥悲しみを‥
これでもかと蓄え過ぎた心は、重さに耐えられず沈むばかりで。苦しくても辛くても浮き上がる事が出来ずに、ただただ静かに溺れていく。
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