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「永久君!」
「‥宮野先輩」
放課後、教室に一人残った俺のもとに先輩は約束通りやって来た。
「ごめんね、急に」
「いえ‥」
先輩へゆっくり近寄り、俺より小さな背丈を見下ろす。
多分、今から先輩が話すであろう言葉。それに応えられたらばどんなにいいだろうと‥思う事だってある。
「あ‥あのね、話し‥聞いてほしくて」
「‥はい」
「私‥っ」
「‥」
絞り出すような‥小さな事に耳を澄ませて、言葉を待つ。
「私っ、永久君が好きなのっ」
「‥」
「初めて見たのは図書室だった。本を読む横顔が凄く綺麗で‥見とれちゃった」
「‥」
「それから永久君見かける度‥目で追ってしまって、気付いたら好きになってた」
今にも泣いてしまいそうな顔なのに、何かを悟っているような寂しげな笑顔。俺を見上げて気持ちを懸命に伝えるアナタは‥とても綺麗だと思う。
「私‥私ねっ
永久君の本を読んでる横顔も好きだけど、永久君の笑った顔が一番好きっ!」
「‥笑った‥顔?」
「ふふっ、そうだよ!
いつも一緒にいるお友達にはよく笑顔を見せてるからっ」
「‥」
花が咲いたようにぱっと笑う宮野先輩は楽しそうに話す。
桃と壱の前では素の自分でいられる。飾らず思った事を言うし‥きっと先輩の言う通りよく笑ってるんだろう。
「永久君のクールな顔しか知らない子も結構居るの。でも永久君の笑顔見た時、私‥」
「‥?」
「‥好きだなあって思った。凄く笑顔が似合う人だなって‥」
「‥」
「でも、たまにもの凄く寂しそうな顔‥するよね?」
「‥そうですか?」
「あ、ごめんね!
追い掛けたりしてたんじゃないの!たまたまっ見る事があって‥お友達といる時は凄く楽しそうに笑ってるけど‥」
「‥」
「外を眺める永久君が凄く‥泣いてるように見えたから」
ころころと表情を変え、今は眉を寄せてまるで自分の事のように悲しむ先輩は優しい人なんだろう。自分が告白してる時に人の心配をするなんて‥
「先輩は‥優しいんですね」
「え‥あっごめんなさい!
余計なお世話だったよねっ」
「‥そうじゃないです。本当にそう思っただけですから」
「っ‥」
顔を赤くして俯く優しい先輩を俺は傷付ける事しか出来ない。
例えそれが先輩の自己満足だったとしても‥
「永久君」
「‥はい」
「ごめんね、私‥永久君に嫌な思いさせてしまう。だけど‥」
「‥」
「私やっぱり永久君好きです!私と、付き合ってくれませんか?」
宮野先輩は振られる事を分かっていて、自分が傷付く事も俺に嫌な思いをさせるなんて‥そんな事すら考えて、それでも気持ちを伝えてくれたんだ。
「宮野先輩」
「‥」
そんな宮野先輩に俺はありきたりな言葉を紡ぐしか出来ない‥先輩を泣かす事しか出来ないんだ。
「気持ちは凄く‥嬉しいです。でも‥ごめんなさい」
「っ‥」
ぽろぽろと涙を流す先輩に俺は何も‥してあげられる事は無い。
「‥本当に‥凄く嬉しかったです」
「っ」
「笑顔が‥似合うだなんて、言われた事無かったから」
「‥永久君っ」
「‥?」
「ありがとうっ
私‥永久君がこれからも笑顔でいられるよう願ってるからっ」
「‥」
「永久君の中の悲しい事がっ、少しでも溶けていきますようにって‥祈ってるからっ」
「‥」
「だから‥だからっ
元気でねっ!」
「‥っ」
笑顔で最後の言葉を残し俺に背中を向けた先輩は、強く‥そして弱々しい
先輩はこんな俺に、それでも願って祈ってくれると言う。
俺は‥彼女に何も出来ない
でも。
それでも
「っ、宮野先輩!」
「?」
「俺っ‥俺も!
先輩は笑顔が似合うと思います!」
「っ!」
「だからっ‥っ
俺も‥願ってます!先輩がっ!幸せになれるように!」
「‥っ」
「先輩に!幸せを届けてくれる人がきっと‥未来で待ってるから!」
「っ‥永久君」
「だから‥先輩も、先輩もお元気でっ!」
「‥っ‥ありがとうっ
ありがとう、永久君っ」
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