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「永久」
「‥」
「そろそろ帰ろう?風邪引くよ」
「‥」
みんなと別れて1人でここに戻ったはずだったのに‥俺の背中に声を掛けるのは紛れもなく稔さんの声だった。
「また‥来たら良いよ。2人はずっとここに居るんだから」
「‥」
俺の思考を読み取ったように続けられる稔さんの声に少しだけ心が落ち着いた気がした。
「‥プレゼント、あげたんだね」
「‥」
俺の隣に並んだ黒い靴が視界の隅に入った。
しゃがみ込んだ稔さんをソッと見ると、墓石をジッと見つめる横顔が夕日に照らされてとても綺麗に見えた。
「きっと‥喜んでる」
「‥」
「永久からのプレゼントも、一年ぶりの再会も‥お土産の約束も」
「‥」
「ありがとうって‥聞こえるよ」
「っ‥」
「だからもう泣くな」
墓石を見ていた横顔が俺に向くと困ったような笑みと視線が交わる。
酷く優しい表情はどうしようもなく俺の涙を誘い大粒の雫がボロボロと止まらない。
「泣かなくていい。今日はもう沢山泣いただろ?」
「っ‥‥」
「そんなに目腫らせて‥馬鹿だな、ほらっ」
グイッと腕を引かれ立たされた俺は稔さんの腕の中にすっぽりと収まる。
「っ‥稔さっ」
「帰る気になった?」
そりゃ‥墓前で抱き締められるのは、こんなぐしゃぐしゃな顔になってても抵抗はある。
「‥帰るっ」
「ん、送る」
ポンポンと頭を撫でられると体が離れていく代わりに、手が繋がれた。
俺から視線を反らした稔さんはふっと、柔らかい笑みのまま墓石に向かって会釈をするように睫毛を伏せてから俺の手を引いて歩き始める。
引かれるまま‥歩く俺はチラリと後ろを振り返った。
墓石の前に置いたプレゼントのリボンの光沢が少しだけ光った気がした。
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