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フレイヤ
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喉元に細身のナイフが突きつけられている。
その気になればジークを呼んで彼を裂き殺すこともできるが。
できるが、あえてこのままに。
意思が足りない。私を殺すという意思が。
ナイフを握る手も、若い瞳も、震えている。
すぐ殺さずに威嚇する状態で動かない。だめだ。腕が鈍っている。
私はかの大魔術師を殺した暗殺者に会いに来たはずだが、これは興醒めというやつか。肝心の亜龍種にも逃げられてしまったし、もうここに留まる必要はなさそうだ。
...その前にやることがあった。というか、これが一番重要な用事だったのだが。
隙を見てナイフを叩き落とし、足で蹴って遠くへ放る。
間抜けな声を出したクレイの胸倉を掴んで引き寄せ、亜龍種の噛み跡から少しだけずらした場所、鎖骨の下に口を寄せ、監視用の魔術式を埋め込んだ。
ふと顔を上げると、彼は僅かに頬を紅潮させ浅い息を繰り返していた。
「期待したか、ヴァーギフティング」
意地悪くそんな事を訊いてみる。うるさいと返す青年の瞳は若干潤んでいた。何がここまで彼を堕落させたのだろうか。
がたん。
....あぁ、そうだった。これはお前のものだったな。
「エド....」
安心しきった表情で弱々しく名前を呼ぶなんて。本当に、随分変わってしまった。
一歩下がり、意識を元の自分に戻す。牢の中の囚人に精神を移譲する...つまり、ここにいる私は消滅するわけだが、こんな昼間からやり合うのも不本意なのでやむを得ない。
悪役らしく捨て台詞でも。気の利いた助言にはならないが、大魔術師の霊子の依り代として忠告しておこう。
「お前の花のこと、努々忘れるなよ」
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