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白椿
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ゲニカ大陸の北部に位置する国、セーデルハムンの城下町の外れにその花街はあった。
『白椿(しらつばき)』はその花街にある男娼専門の娼館である。
料金はけして安くないが、可愛らしく教育の行き届いた少年が多い。
そんな評判を得て、白椿は富豪の客を中心に客足が絶えない人気の娼館だった。
露朱(ろしゅ)は白椿で男娼として働く青年だ。今年で24歳になる。
ほとんどが20歳前に店を出る白椿の男娼の中ではだいぶ年上であった。
日が沈み、店内は客を迎え入れる準備のために賑わっている。
「今日も予約は入ってないそうだよ」
そう露朱へ告げたのは、彼の下子(したこ)である同い年の津義(つぎ)だった。
白椿には、直接客の相手をする『上子(うえこ)』と、上子の手伝いや雑用をこなす『下子』がいる。
上子には必ず一人下子が付き、身の回りの雑務をこなしていた。
「『表(おもて)』には出る?」
津義が尋ねる。
「……出ない」
問いかけに対し露朱はゆるゆると首を振って答えた。
白椿には、『表』と呼ばれる店があり、予約の入っていない上子はそこで客への顔見せをする。
『表』にやってきた客を上子はもてなし、客は酒を飲みながらその日の相手を決めるのだ。
津義から今日の予約がないと告げられた露朱も、本来は表の店に出なければならない。
しかし露朱はそれをいつも拒否している。
自分よりもはるかに年の若い少年と並んで店に立つのは避けたかった。
若い頃は露朱もその美しい容姿のお陰で、予約が途絶えない売れっ子の男娼だった。
年齢を重ねてもその美貌が変わらない。
しかし年齢を重ねるにつれて予約は徐々に減り、今ではほとんど客を取っていない状態だった。
客が付かないからと言って、何もせずに店にいるわけにはいかない。
指名がない日は津義と共に下子の仕事を手伝っていた。
「露朱」
今日も店の準備を手伝うために津義に連れ立って歩いていると、背後から呼び止められる。
振り返ると、そこにいたのは白椿の女店主である緒香(おこう)だった。
「ちょっと良いかい?」
「……うん」
「先に行ってるな」
立ち止った露朱に津義が声をかける。
津義がいなくなり、その場に露朱と緒香の二人が残された。
「この間の話、気持ちは変わらないかい?」
緒香が口を開き、それを聞いて露朱はうつむく。
この間の話とは、露朱の今後についての話だった。
白椿で働く少年少女たちは、店に借金が残っているなどの理由がないかぎり、ほとんどが大人になると店を出ていく。
露朱は元々店への借金は全くないので、本人が望めばいつでも店を出ることができた。
「仕事があるか心配なんだったら知り合いのところを紹介するよ」
緒香もけして露朱を店から追い出したい訳ではない。
客が取れなくなり、所在なさげな露朱を心配してのことだった。
しかし露朱は彼女の提案に首を振って答える。
「ぼくにはこの仕事しかできないから……」
そう言うと露朱は緒香から逃げるようにその場を離れた。
緒香が自分を心配してくれていることは痛いほど伝わってくる。
だがこの店を出て生きていく自分の姿が、露朱には想像できなかった。
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