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手紙
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朝方、泊まり客も帰り片付けも一段落して津義が自室で休んでいると、珍しい訪問客があった。
「津義、いる?」
「いるよ。どうぞ」
津義の部屋へ入ってきたのは、先ほどまで共に下子の仕事をしていた露朱だった。
手には紙とペンを持っている。
「どうしたんだよ、俺の部屋に来るなんて珍しい」
長年露朱の下子をやってきたが、彼が津義の部屋へ来るのは初めてのことだった。
「手紙、書いてくれない?」
「手紙?」
「緒香さんがね、筑紫との外出許可くれたから手紙出したいんだけど、ぼく字が書けないから」
そう言いながら露朱は津義に持ってきた紙とペンを渡した。
露朱は筑紫に外で会う許可が下りたかどうか、手紙で知らせると約束していた。
露朱が客と外で会うことはすでに緒香から聞いていたので、津義は驚かなかった。
緒香からはできるだけ露朱に協力してやるように言われていた。
露朱から受け取ったものを確認すると、しっかり封筒も用意されていた。
おそらく緒香からもらったのだろう。
津義は12歳のときに白椿へやってきて、同じ年の露朱の下子となった。
それから12年間、ずっと露朱の下子をしている。
長い付き合いとなる彼のことを、緒香と同じように津義も心配していた。
「字の書き方、教えてやろうか?」
「え、いいよ。ぼくには必要ない」
ぼくには男娼しかできないから。きっと露朱の言葉にはこう続くのだろう。
白椿では、働いている子どもたちが望めば教育を受けることができた。
それは年長の者が基本的な読み書きを教えるという簡単なものではあったが、幼い時分から働く少年少女にとっては貴重な教育の場であった。
だが露朱はそういった類のものを一切拒否してきたため、字の読み書きができないままだった。
ずっと男娼をしていく自分には必要のないものだと考えていた。
結局、手紙は津義が書いた。
外出の許可が下りたことと、都合のいい日時を問うだけの簡易な内容の手紙を筑紫に出した。
返事はすぐに来て、5日後二人は店の外で会うことになった。
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