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二人は城下町の飲食店にやってきた。
そこは筑紫が何度か訪れたことのある店だった。
外で食事をすること自体初めての露朱は、物珍しそうにきょろきょろあたりを見回している。
「露朱はネグレイス料理って食べたことある?」
「食べたことない」
「ぼくもこの店で初めて食べたんだけど、すごくおいしくてね。露朱も気にいるといいんだけど」
すでに注文は済ませてあり、取りとめのない話をしていると料理が運ばれてきた。
食欲をそそる良いにおいがあたりに立ちこめる。
ネグレイスはセーデルハムンの南に位置する国だ。
漁業が盛んで、魚料理がよく食べられていた。
味付けも魚介の出汁を使った薄味なものが多い。
肉料理が主で、北国のため濃い味付けの多い自国の料理とは違ったおいしさがあった。
「いただきます」
「……いただきます」
筑紫はこの隣国の料理を気に入っていた。
露朱も気に入ってくれるだろうかと、彼が料理に口を付けるのを、少し緊張した面持ちで見守った。
「……おいしい」
露朱が小さく呟いたのを、筑紫は聞き逃さなかった。
ほっと息をついて、自分も食事を始める。
時々目の前に座る人を盗み見ると、夢中で料理を口に運んでいた。
どうやら気に入ってもらえたようだ。
「ごちそうさまでした」
出された料理をすべて平らげて、露朱は満足そうな様子だった。
いつもは白すぎる頬にほんの少し赤みが差している。
「すごくおいしかった」
「おいしかったね!セーデルハムンの料理も好きだけど、また違ったおいしさで好きなんだよね」
筑紫は好きな人に喜んでもらえたことが嬉しくて、満面の笑みだった。
しかし筑紫の言葉を聞いた露朱は少しだけ表情を曇らせた。
「どうしたの?やっぱりおいしくなかった……?」
まるで鏡のように、まったく露朱を同じ表情にころっと変わった筑紫が、不安そうに問いかけた。
「あ、いや、おいしかったよ。……ぼく、今まであんまり食べることに興味がなくて、おいしいと思ったこともなかったなって思って」
「そうなんだ」
「これからはもっとちゃんと食事を取るようにするよ。ありがとう、筑紫」
そう言って露朱は控えめな笑みを浮かべた。
「ううん、良かった」
自分の存在が誰かに良い影響を与えるというのは嬉しいものだ。
その相手が想い人であるなら、なおさらのことである。
筑紫は胸の内に感じたことのない温かいものが溢れてくるのを感じていた。
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