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ガラスの兎
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空を鮮やかに染めていた木々の葉もすっかり落ちて、セーデルハムンに本格的な冬がやってきた。
「ただいま」
「おかえり。寒かっただろ」
露朱が外出から自室に戻ると、津義が火鉢に炭をくべているところだった。
露朱と筑紫が初めて共に出掛けたあの日から、もう一月ほど経つ。
二人は店の中と外の両方で逢瀬を重ねていた。
ただ手紙でのやり取りはしておらず、筑紫が店に来たときに次の外出の約束をしている。
今日も筑紫と外で会い 、帰ってきたところだった。二人で外出するのはこれで三度目になる。
「今、炭を入れたばかりだから、寒かったら中央で待ってろよ」
中央とは、その名の通り店の中央にある憩い場のことだ。
「あ、じゃあぼくお湯と布を分けてもらってくるよ」
火鉢を起こす際は、乾燥を防ぐために濡れた布を用意する必要があった。
「お、そうか?悪いな。それじゃあ頼むよ」
露朱はこくんと頷いて、台所へと向かった。
露朱がお湯と布の入った桶を持って自室へ戻ると、部屋はほんのり暖かくなっていた。
「貰ってきたよ。かけちゃうね」
「ああ、ありがとな」
桶を床におき自分も膝を付く。そしてお湯をよく吸った布を持ち上げて、垂れないくらいまでぎゅっと絞った。
ちょうどよく湿った布を広げて、部屋の中にある物干しへとかける。
残ったお湯は火消しに使うため、桶を部屋のすみへと移動した。
「今日はどこに行ったんだ?」
「いつも通りご飯食べて、その後ガラス雑貨のお店に行った」
首巻きを外しながら、津義の問いに答える。
筑紫はきれいで可愛らしい、小さな置き物雑貨が好きなのだそうだ。
お気に入りを見つけては買い集めて、部屋の一角に並べて飾っているらしい。
上着を脱いでしまう前に、内ポケットから小さな袋を取り出す。中には小さいガラスの兎が入っていた。
「きれいだな」
「筑紫が買ってくれたんだ。ぼくに似てるって」
「あー、なんとなく分かる」
小さな兎は露朱の手の中でキラキラと光っている。
しばらく眺めて満足すると、元の入っていた袋へと兎を戻した。
飾ってやりたいがこの部屋は客の相手をする場所でもあるため、目につく場所に私物を置くことはできない。
仕方ないから時々出して愛でてやろう。
そう思いながら鍵のかかる引き出しへ、袋に入った兎をしまった。
「前にも言ったけど、俺あしたから三日間帰省するから」
火起こし道具を片づけながら津義が告げる。
「うん。行ってらっしゃい」
「露朱。お前俺がいない間、筑紫さん以外の客は絶対に取るなよ?」
「筑紫以外、ぼくのことなんて買わないから大丈夫だよ」
「とにかく、絶対に取るな。いいな」
再度厳しく言いつけると、露朱は小さくうなずいた。
その様子を見て津義がはあっと息を吐く。
露朱は昔から、おかしな客に目を付けられることが多かった。
暴力的な行為を強いる客も多く、露朱もそれを受け入れてしまう。
そのため、予約が途絶えず毎日のように客を取っている頃は生傷も絶えなかった。
津義がいれば目を光らせることもできるが、不在時だとそうはいかない。
他の下子に頼むという手もあったが、ただでさえ下子は人手不足でさらに仕事を増やすのは気が引けた。
「洗濯とか掃除とか、手伝えそうなことやってるよ」
「ああ、そうしろそうしろ」
津義はそう言いながら、火起こし道具を持って部屋から出ていった。
露朱はそれを見届けて、着たままだった上着を脱ぐ。
部屋はすっかり暖かくなっていた。
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