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悪魔
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翌日の昼頃、予定通り津義は帰省のために店を出た。
津義は一年に一度は必ず実家へ顔を出しているので、彼の不在はそこまで珍しいことではない。
すっかり日も落ちた頃、露朱は店の廊下を歩いていた。
店はもう開いているようで、時々客を連れた男娼とすれ違う。
(台所でも掃除しようかな)
開店準備の手伝いも終えて手の空いていた露朱は、そんなことを思いながら廊下を歩いていた。
ふと、前から男娼に連れられて歩く客が目についた。
客もこちらに気付き視線が合う。
その瞬間、ぞわりと悪寒が走った。
「露朱じゃないか!まだこの店にいたんだな」
親しげに声をかけられる。
その客は昔、露朱のことをよく買っていた男だった。
だがおかしい。
この男は白椿に出入り禁止になっているはずだ。
男には加虐趣味があった。
男の暴力は初めの内こそ軽く叩く程度のものだった。
しかしそれは次第にエスカレートしていき、露朱は男に全治一ヶ月の怪我を負わされたのだ。
そのことがきっかけで、男は出入り禁止になっているはずだった。
だがそれももう10年前の話だ。
記録は残っているはずだが、偽名を使ったりすれば潜り込むことも難しくないのかもしれない。
「露朱がまだいるって知ってたら指名したのになあ」
男が笑いながらそう言うのを聞いて、露朱は鳥肌が立った。
若い男娼が不安そうに男を見上げている。
この少年にも、男は暴力を振るうつもりなのだろうか。
軽く周囲を見回す。
自分と男と若い男娼の他に誰もいないことを確認すると、露朱はすっと男に近づいた。ぐっと体を寄せて、男を見上げる。
「ねえ、それじゃあぼくのこと買ってよ」
「えー……でもねえ」
男はちらりと若い男娼を見た。
「ぼく、お客さんのこと気に入ってたんだよ。それなのに店の方針で会えなくなっちゃって寂しかったんだ。ね、お願い」
我ながら、よくもこんな心にもないことがすらすら出てくるなと思う。
自分を見下ろす男の目の色が変わり、露朱はぞくりとした。
「相変わらずきれいだね。そんなに言うなら、仕方ないよね」
男の手が露朱の肩に置かれる。
先程まで連れ立って歩いていた少年に、男が「ごめんね」と一言告げた。
少年は茫然と立ち尽くしている。
「ごめんね。お金は、君に入るようにするから。自分の部屋で待っててもらえるかな?」
露朱がそう言うと、少年は小さな足音を立てて走り去っていった。
露朱と男の二人だけが残される。
「それじゃあ露朱、君の部屋に連れていってくれるかな。楽しい夜にしようね」
笑う男の顔を見上げながら、心が冷えていくのを露朱は感じていた。
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