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始まり(終)
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辺りをおおっていた雪もすっかり溶けて、町を暖かい風が吹き抜ける。
咲いたばかりの花を揺らし、春の訪れを告げていた。
「忘れ物ないか?」
「うん。たぶん大丈夫」
津義の問いかけに露朱が答える。露朱の荷物は鞄一つに収まるほど少なかった。
「まあそう遠くないし、何かあったらまた来ればいいか」
そう言って津義は笑った。露朱も笑顔でうなずく。
露朱は白椿を出ることになった。今は店の前で迎えを待っているところだ。
記憶のほとんどが閉じ込められた場所を見上げる。
痛いことや苦しいこともたくさんあったが、露朱はここでの暮らしが嫌いではなかった。
「いつでも顔見せに来な。ここはずっと、あんたの家なんだからね」
緒香に抱き締められて彼女のぬくもりが伝わる。
母親とはこんな感じなのだろうかと露朱は思った。
津義と緒香の温かい眼差しを受ける。
最後に彼らの優しさに気づくことができて本当によかった。
露朱は心の底から感謝した。
「露朱」
優しく自分を呼ぶ声がする。その声は穏やかな風に乗って、露朱の髪を揺らした。
新しい家に着いたら、まずは掃除をしなければ。掃除は得意だ。
部屋がきれいになったら、二人でご飯を食べよう。
振り返る露朱を柔らかい光が照らして、金色の髪がきらきらと輝いた。
end
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