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target3-19.風紀委員の日常
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[雪斗side...]
清潔感のある家具で統一された部屋の一室には、どこか心地のいい静寂の中で軽やかにペンの走る音だけが聞こえる。
此処は風紀委員の庶務室。
その委員長の颯都と副委員長の俺は、いつもの如く書類整理をしていた。
何故こんなにも静かなのかと言うと、書類整理中は話をしないという暗黙のルールがあるからだ。
かと言って、息苦しいと感じた事はない。
コーヒーを啜る音、香しい匂い。
パラ…パラ…書類を捲る音。
カリカリ…ペンが紙に書き込まれる音。
俺は、チラッと委員長を目だけで盗み見る。
つくづく端正な顔立ちだなぁと思う。
いつもの切れ長で鋭い目は伏せられ、鼻筋はスッと通っている。
「(睫毛長いな…)」
観察している間にコーヒーを一口飲んで嚥下する白い喉、少し濡れた唇。
それだけなのに、何で扇情的に見えてしまうのだろう。
「(……こういうのを目の保養っていうのかな)」
「雪」
ぽーっと見惚れていると、本人に名前を呼ばれ心臓が跳ね上がる。
颯都は、いつからか俺の事を雪と呼ぶようになっていた。
あまりにも自然すぎて、いつからだったかは覚えていない。
颯都に親しい名前で呼ばれるのは嫌じゃない。むしろ、呼ばれる度に胸が高鳴るくらいだ。
でも、盗み見をして変な事を考え掛かっていた俺はかなり動揺した。
「えっ!?な、何?」
見ると颯都の机の上にあった積み上げられた書類の山はほぼ無くなっていた。
「…書類。生徒会に急かされてる奴があるから渡してくる」
颯都は少し笑って、すっと立ち上がる。
「あ、うん…」
その笑顔に胸が高鳴ったのは、内緒だ。
少し俯くと、視界にコトン、とコーヒーカップが置かれた。
「疲れたなら無理せず休めよ?」
「ありがとう…」
「あぁ。じゃあ直ぐ戻る」
書類を持った颯都は流れるような動作で出て行ってしまった。
湯気が出ているコーヒーカップを手でそっと包む。
「(あぁ…暖かいな……)」
カップを持ち口に含むと、口の中に広がった風味が美味くて微笑む。
なんだかやる気も出てきた。
「よし、颯都が来る前に終わらせよう」
俺は意気込んで自分の机に積み上げられた書類の山に取り掛かった。
―――――――…
―――
―――――……
[颯都side...]
生徒会室の扉の前。
此処には余り関わりたくない人物…というか人種がいる。
だがそうも言っていられない。
雪も疲れている様だし、早く戻って残りの仕事を遣らなければ。
覚悟を決めてドアをノックし開いた。
生徒会室は広く、仕事のデスクが並んでも尚悠然と家具が鎮座している。
此処には滅多に全員が揃わないというのに、今日に限って全員がそのデスクに座っていた。
一斉に寄る視線に眉間に皺を寄せながらも、真っ直ぐ歩いていく。
途中双子に「颯都兄だー!」だ「遊ぼーよ!」だ言われたが今は無視だ。
自分より下の目線に居るのに上から見下ろすような視線と目が合う。
「頼まれていた書類だ。じゃあな」
ぶっきらぼうに書類の束を渡し、まるで動物園の動物になったような居心地の悪い空間から即刻立ち去ろうとした。
「まぁ待て。褒め言葉くらい受け取ったらどうだ」
「…お前の褒め言葉なんて気色悪ぃだけだ」
腕を掴まれたが直ぐに振り解く。
此奴は嫌いだ。
考えなくとも、嫌いな理由は幾らでも上がる。
早々に出て行こうと歩き出した前に双子が立ち塞がった。
「何だよ」
逸れなりに交流がある為(というより双子の違いを見抜いてから妙に懐いてくる)邪険には出来ないと、溜め息混じりに用件を聞いた。
「颯都兄!ちょっとこっちに座って~!」
「は?いや、」
翔に腕を引かれ慧に背中を押され、断ろうとする前にソファに座る羽目になった。
「すぐ済むから!…ねっ?」
慧が首を傾げて見せる笑顔はあどけない少女に近い。
悪意の感じられない様子に颯都は渋々少しだけな、と了承した。
「ありがとう、颯都お兄ちゃん!」
パタパタ駆けて行き、何かを持って向かいのソファに座る。
「「颯都兄(お兄ちゃん)!見て見てっ!遂に完成したんだ!」」
弾んだ声を合わせ、本棚から取り出し見せて来た表紙には。
「(ッ……)」
咄嗟に来た吐き気を何とか抑え、机に置く。
相手の顎に手を掛けて笑う男と、赤面の表情で抵抗する男。
…関わりたくない世界だな。
「おーっ、いいじゃんいいじゃん♪」
いつの間にか集まって来たギャラリーの一人が歓声の声を上げる。
会計の風見 昶が物体を手に持ち、頁を捲り中身を読んでいる。
…何で普通に見れるんだよ。
「流石、良く出来ていますね。商品化したら人気が出そうですよ」
カチャンと人数分のティーカップが置かれる。
見上げると、生徒会で唯一常識人だと思っていた漆原 京弥が何食わぬ表情で表紙を見ていた。
どうやら、此奴が普通の常識人だという見解は間違っていたらしい。
そもそも色々な事が普通とは言えないが。
風紀委員長として学園の実態を見ていれば、毎日嫌な物を見てしまう。
(見た途端散らすが)
大体、あんな物見た後に何故紅茶が飲める?
俺が思案している間に話は盛り上がりを見せていた。
「何かさ~この赤いライオンみたいな髪の人、会長に似てない?」
指差しでヘラっと笑ってくる会計。
いや、知るか。
と、突然双子が立ち上がった。
「あったり~!!そのモデルね~会長と颯都兄なんだよっ!」
「ていうか~そのまま2人で妄想しちゃった♪」
人差し指を立て言う翔と、悪戯に舌を出す慧。
(有り得ねぇ…)
(中々面白くなりそうだ)
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