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target4-9.取り引き
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寮の門限も迫り、全員集合して退場ゲートに向けて歩き出す。
最後尾に沈んだ足取りで歩く郁を見つけた颯都は、頭をくしゃっと撫でると何も言わず隣を歩く。
足元を見ながら歩く郁が、小石を蹴飛ばす。
「…璃空様に告白した。結局、駄目だった」
「…あぁ」
「あ~あ!一人で意気込んで、一瞬で玉砕して…バッカみたい」
天を仰ぐ郁の表情は髪で見えないが、颯都には涙を堪えているように見えた。
「良いんじゃねぇか、其れで」
思わず隣を見た拍子に涙が散る。
「お前はお前だろ。自分のペースで進めば良い」
その言葉に郁はハッとなる。
そういえば、落ち込んでいた時にいつも声を掛けてくれたのは…璃空様じゃなかった。
「…アンタを好きになれればよかったのに」
「…あ?」
思わず俯いて呟いた言葉の意味は、郁にも分からなかった。
急に駆け出し、くるりと一回転して後ろに手を組んで振り向く。
「なーんてね!
今日は楽しかった!ありがとねっ!」
笑顔で叫んでから、走って前を行く面々に加わる。
颯都はふっ、と優しげな笑みを浮かべた後、自分を呼ぶ声に歩き出した。
―――――――…
―――
―――――……
疲労困憊の休日を終えた、次の日の朝。
授業中に璃空が破ったルーズリーフの切れ端を颯都に寄越した。
二つ折りのルーズリーフを開く。
『放課後、俺の部屋に来い。約束は忘れていないだろうな?』
綴られた文章を読んで、颯都は薄いため息と共に目を閉じた。
事は昨日の昼前に遡る。
歩きながら璃空と言い合いになり、切りが無いと思った颯都は不自然にならない程に声を潜め、話題を変えた。
「それより、どういう事だよ」
「何がだ?」
「一日付き合えって言っただろ」
「付き合ってる。こうしてな」
ドヤ顔で手を繋いでくる璃空に怒りを覚え、颯都は手を振り解いて睨みつけた。
「いい加減にしろよ。好き勝手に遣りやがって。人を考慮せずに行動するのは三歳までなんだよ。お前はいつまで三歳児だ?」
その言葉が痛かったのか、流石の璃空も押し黙った。
そこで、颯都もトーンを下げ、説得を試みる。
「彼奴の気持ちも考えろよ。お前は付き合うのが面倒で俺をカムフラージュにしてるのかも知れねぇが、彼奴はお前みてぇな最悪な野郎でも真剣に交際を夢見てるんだぜ」
璃空は颯都の話の別の箇所に衝撃を受けた。
カムフラージュ。
これだけ大胆にアピールしていても、そういう風に取られるとは予想外だった。
しかもこの俺を最悪だと?
…面白い。
璃空は心の中で笑いながら、颯都に感づかれないようにポーカーフェイスで話を持ち掛けた。
「提案がある」
「…何だよ?」
颯都は即刻、ふざけた事を言えばいつでも殴り飛ばせるように拳を固めていた。
まずは、それを解かせる為の一言だ。
「午後からは…郁と言ったか?そいつと一緒に回ってもいい」
「…本当だろうな?」
「あぁ、ただし。代償はもらう」
「……代償?」
「俺は俺の自由な時間を無駄にするんだ。お前の何かと引き換えにするなら、お前の考えに乗ってやる」
我ながら、強引なかこつけだ。
しかし、この鈍感を落とすにはいっそ賭けてみるしかない。
こいつは、自分より弱いものを当たり前に守ってやるようなヤツなんだろう。よく一緒にいるヤツもそうだ。
その庇護欲を利用する。
「…分かった。俺に出来る事なら何でもする」
「そうか。その言葉、忘れるなよ」
顔が緩みそうになるのに堪えて、璃空は念を押した。
…そして風紀委員会の仕事が終えた今、颯都は部屋の前に来ていた。
二度と来たくなかった上に、非常に面倒な借りを作ったと思ったが仕方ない。
チャイムを鳴らして待つ時間、手早く済ませる事だけに重点を置いていたが、気晴らしにバスケでもするかと思いつく。
「入れ」
ドアが開き、部屋に入っていく璃空の後に続く。
「何でもやるんだな?」
「あぁ、だから早く…、ッ!?」
早口で言う颯都を、璃空は部屋に入るや否やベッドに押し倒した。
「ッ止めろ!」
璃空に卑猥な手つきで腰を撫でられ、颯都はすぐさま殴りかかった。
しかし、璃空はそれを見切って交わし、ニヤリと笑う。
「"出来る事なら何でもする"。…お前、そう言ったろう」
「…こんな事したいんだったら、他で」
「他?あり得ないな」
攻防戦を繰り広げながら、璃空は言葉を遮ると暴れる颯都の腕を掴む。
「代えが効かないからこうしてるんだ。
それともお前は、自分の言葉も満足に守れないのか?」
璃空はわざと馬鹿にしたように嘲笑う。
こうすれば、義理堅く負けず嫌いな颯都が反論出来ないであろうと璃空は見越していた。
そして閉口した隙に、颯都のワイシャツの中へ手を滑り込ませた。
「…ッ止め…!!」
(そんな能力が有るなら)
(昨日の失言する前の馬鹿な俺を、殴り飛ばしたい)
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