アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
target6-7.束の間の平和
-
文化祭を楽しむ三人は、ホールに来ていた。
そこは音と声、大勢の人で溢れている。
「何だァ…?」
「カラオケ大会じゃない?」
目を向けてみると、ステージ上で踊りながら歌っている郁の姿があった。
「(彼奴もはっちゃけたよなぁ…)」
「付き合って、練習」
その一言で唐突に観客の練習台として付き合わされた日々が思い返され、颯都は苦笑した。
しかし、楽しんでいる様子が見れて一安心だ。
前は発散する方向を間違えていたが、今回思い切った事で周りのイメージも変わるだろう。
それに…、と颯都は飛び跳ねたり名前を叫ぶ人々を見て口元を緩ませる。
――ファンや味方が増えるのは明らかだ。
郁が場を大いに湧かせてからも続くカラオケ大会を見て、その後も演劇部や合奏部の公演を楽しんだ。
…そうして、颯都が初参加の文化祭初日は、充分に学生気分を満喫出来た一日となったのだった。
―――
――――…
――――――――……
文化祭二日目。
颯都は交流を持つ面々から誘われ、幸い可能な時間帯がずれていた為それぞれと約束をしていた。
雪斗が綿飴を食べている様子に微笑んだり、郁に引っ張られてあちこち連れ回されたり、傑と他愛もない会話をしながら模擬店を回った。
平和な一日が送れるかと思っていた矢先、携帯が鳴り画面を見ると……二階堂 璃空の文字。
颯都は素早く電話を切った。
「五十嵐?どうかしたか?」
「いや、何でもない。でな、」
無理矢理笑って傑との会話に戻ると、再び着信が鳴る。
それでも会話を続けるのを不思議がった傑が問い掛ける。
「さっきから鳴ってっけど…出ないのか?」
「…あぁ…」
電話は切れても何度となく掛かってくる。
折角彼奴が居ないお陰で、平穏な時間を過ごせていたのに。
だがもし業務連絡だった場合の事を考えると、このまま放置する訳にもいかない…か。
「…もしもし」
傑に断ってから、何度目かの着信に嫌々ながら漸く出る。
『随分と焦らすんだな。まぁ、お前にならたまに焦らされるのも悪くはない』
…此奴、頭が可笑しい。思わず顔が歪んだが心の声に留めた。
「…用件は」
『今どこにいる?』
「模擬店だけど」
『…まさかあの副委員長も一緒か?』
「いや、今は瀬川といる。用件なら手短に」
『瀬川…?バスケ部エースの瀬川か?いつの間に接点を持ったんだ?』
「んな事言う必要が…『今から俺と回るぞ』…はぁ?」
『そこで待ってろ。すぐ行く』
「おいッ………はぁ」
一方的な事を言って通話が切れ、颯都は息を吐く。
髪を掻きながら、颯都はどうしたものかと考える。
「悪い瀬川…」
「あぁ、いいよ。用事が出来たんだろ?」
楽しかったぜー、じゃあなー!と手を振って傑は人混みの中に紛れてしまった。
…まぁ、良いか。
絡まれたら瀬川が面倒に巻き込まれるかもしれない。
俺一人で逃げよう、と颯都が踵を返した時。
「颯都」
振り向かずにダッシュしようとした腕を璃空が素早く掴む。
「逃げるな」
「…………」
沈黙を挟み、ギギギと効果音が付きそうな不自然さで颯都が振り返ると。
いつもの見たくない顔がそこにあって、物凄く嫌な顔になるのが自分でも判った。
反対に、そいつはいつもと違う穏やかな表情で微笑んでいて。
「…探したぞ、颯都」
「颯都兄ーー!!」「颯都~~!」
そいつの向こう側から聞こえる騒がしい声に、軽い頭痛を感じて額を押さえた。
(どうやら此処に居る限り、到底平穏は望めそうにない)
(けど…仕方ねぇか)
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
93 / 108