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target6-9.メインイベント
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璃空がマイクを使って呼んだ先、見詰めている方向へざわめく人々が振り向く。
そこには、苦い顔をした颯都がいた。
「(ふざけんな、あの野郎…!)」
軽い殺意を覚え、璃空を射殺すつもりで睨んでみるが、あまり効かないのか勘に障る笑みは相変わらずだった。
目立ちたくないという颯都の心情を余所に、璃空が目で合図すると京弥がドラムを叩き始める。
ざわめいていた人々も徐々に音に乗り出し、タイミングを合わせて昶がベースを鳴らす。
璃空のギターも入った時、音と光の洪水となって一気に溢れ出した。
歓声と熱狂の渦はあらかじめ予定していたような雰囲気で、颯都もいよいよ逃げられない空気が作られる。
「(…ったく)」
ステージの中心と、観客席の奥で視線を交わす。
僅か数秒の心理的葛藤の後。
歌い出しのタイミングで颯都が歌い、歓声が沸き起こる中ステージに向かっていく。
大多数がその歌声に聞き惚れているのだが、たまに興奮した生徒が颯都の腕を掴み、止められてしまう。
そうなった時は璃空が機転を利かせ、まるで打ち合わせされたようなスムーズさで交互に歌う二人。
熱狂に包まれた場で揉みくちゃになり汗を掻いた颯都は片手でネクタイを緩め、制服の上のボタンを外し歌いながらステージに上がる。
その仕草に、思わず倒れる脱落者が数名出た。
漸くステージに上がった颯都は、璃空に文句の一つでも言ってやろうと思っていたのだが、丁度サビに差し掛かり睨み見る。
それは、傍目から見ると熱く見詰め合っているようにも見えた。
サビで璃空がハモりパートに変えた流れも不自然さがなく、サビを歌い終わった所で颯都は璃空の胸倉を掴む。
「ふざけんな、何だよ此!」
「お前が加わってまた盛り上がったんだからいいだろう」
「良くねぇよッ。大体こういうのはお前ら生徒会だけで……」
言葉の途中で二番に差し掛かり、手からスルリと抜けた璃空が歌い出す。
会話の内容は分からないものの、一連の流れを見ていた人々は打ち合わせ済みのサプライズイベントと思っていた。
そうして生徒会によるバンド演奏は此処一番の盛り上がりを見せたのだった―――。
…そして、いよいよ大詰めを迎えた文化祭の人気投票。
満員で埋め尽くされたホールは照明を暗く落とし、投票結果を待ち望んでいた。
(※サイトのリアルタイムだった時の人気投票結果をそのまま反映しています)
まずは下位から発表され、顔見知りの面々がステージに上がり脚光を浴びていた。
(ランク下位に下がった昶は物凄い勢いで落ち込んでいたが…)
「――さぁそれではいよいよ、ベスト3の発表です!!」
まだ名前を呼ばれていない人々に緊張が走る中、璃空は自信満々な表情、颯都はどっちの場合も想定して複雑な表情でいる。
「ベスト3に入ったのは……ギャップにやられた!中性的だが男らしさも併せ持つ、白瀬雪斗さん!!」
「えっ…、俺?」
ピンスポットが当たり驚く雪斗の背を押し、笑みを浮かべた颯都が温かく送り出す。
部活動や委員会で活躍している生徒も大体が呼ばれ、残る可能性は、まだ呼ばれていない璃空と颯都のみとなった。
璃空は得意の自信満々な表情で、颯都は複雑な表情でいる。
一位に選ばれたくないという思いもあるが、一位にならなければ今の状況をどうする事も出来なくなる。
矛盾する思いに眉を寄せ、結果を待っていた。
「二位を引き離し、今年の人気投票一位に輝いたのは………!」
「(ふん…、貰った)」
「(……やべぇ)」
「―――…五十嵐颯都さんです!!!」
「………」
驚きと喜びと微妙な感情が一気に寄せてきて、颯都は反応に困った。
まだ実感が湧かないでいるのに、歓声に押されるようにしてステージに上げられる。
「……まさか俺が選ばれるなんて…有り得ねぇっつーか…」
今の感情をそのままマイクに語っていた颯都は、そこで迷うように少し沈黙してから、ハッキリと言葉にした。
「けど、投票してくれて有難な」
少し顔を逸らして照れ臭そうに告られた言葉に会場が一気に歓声で沸き立つ。
そんな会場を尻目に、璃空は恐らく人生初の負けに相当なショックを受けていた。
(…俺が、負けただと…?)
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