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target6-13.生き残り
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ーーー颯都が、純血種?
しかも……、一人残らず全滅だと思われた惨殺事件があった五十嵐家の息子。
突然告げられた内容を上手く飲み込めずに、頭の中で反芻する。
にわかに信じられずにいる咲良は、回らない思考を逃避して、漂う異常な緊張感を笑った。
「はは…。純血種?そんなのありえへん!
颯都は理事長の親戚やろ?…しかも、あの五十嵐家の生き残りなんて……冗談にしてはタチ悪すぎやろっ!」
乾いた笑いが不自然に響く。
この空間では、普通の反応の咲良がまるで異質のようで、べったりとした奇怪で得体の知れない何かが取り巻いて、場にそぐわない自分を嘲笑っているような気がした。
「それは単なるカムフラージュだ。自分に関する情報を消して、出生を隠す為のね」
「違う。何の根拠が有ってそんな、」
「颯都センパイ。言ったでしょう?オレはあんたの過去を知ってるんスよ」
鋭い雰囲気に愉快さを混ぜて、まるで自分の事のように語る相手の言い分を交わすつもりだった、が。
「……俺の何を知ってるって?」
知ってる、などと容易く口に出されたのが勘に障り、颯都は歪んだ口角を引き上げた。
対する不気味な笑みは、ゆっくりと、物語を読むような語り口で話し始めた。
「11年前……あんたが生まれた雪の日…一家を一人の吸血鬼が襲った。その吸血鬼は、滅多に姿を現さず、伝説と化している純血種…。あんたを守ろうと使用人や家族は立ち向かったが、そのたった一人の吸血鬼に誰も歯が立たない。そして健闘虚しく殺された。……颯都センパイ、あんたを覗いてね」
「…………」
「最も、生徒会連中や…一部の感がいい吸血鬼は、センパイが普通じゃないってことくらい、薄々気付いているだろうけどね。
理事長の教育方針だか知らないけど、本能を抑えた結果、ここにいるのは能力の衰えた吸血鬼ばかりだ」
和泉を揶揄する言い方に、颯都の眼光も鋭くなる。
「おっと。んな睨まないでくださいよ。
兎にも角にも、颯都センパイは能力的にもズバ抜けてるって言いたかっただけッスから」
掴み所のない笑みを浮かべる一方で、咲良が知らない沈黙の中にも腹の探り合いが行われている。
「……で?仮にそうだとしたらどうする」
飽くまでも、仮という言葉を使う颯都に不意を突かれたように吹き出す。
「そうッスね、"仮に"そうだとして、オレがそれを言ったら………あんたは目的を果たせなくなる」
ピクリ、と僅かだが颯都の眉が動く。
「血を調べれば、五十嵐家の血を受け継いでいる事くらいすぐに明らかになる。そうしたら、今まで通りでいられない。
生き残った"奇跡"として、貴族階級や吸血鬼協会に引っ張りだこになる。
そうでなくても、無理矢理表舞台に立たされる。それがセンパイは恐いんじゃないスか?」
内側から暴かれていく感覚にぞわぞわと鳥肌が立つ。
此奴…何処まで知ってる?
そんな颯都の内心を探るような尋問は続く。
「大切なもの全て奪われたあんたが、その元凶を憎まないか?…いや、憎んでるはずだ。殺したい程……ね」
「………どうして、そんな事」
唇が、乾く。
頭痛と共に、目眩が襲ってくる。
――――俺は、覚えている。
何の疑いもなく続くだろうと思っていた幸せが、一瞬で壊された瞬間。
映像。音。その温度さえも。
無力感と、激情。その全てを。
血が冷えていくのに、血管を激しく脈打っている。
まるで自分の内側にいる何かが暴れ出しそうで気持ちが悪く、拳を強く握り締めていなければ自分を保っていられそうになかった。
(…忘れられる訳がない)
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