アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
プロローグ。
-
*
あの日、あの時が無ければ、
きっと俺の人生は始まっていなかった。
ーーープロローグ
ザァァァ……。
夜の暗闇に紛れ、降り続ける大量の雨。
止むことを知らないそれは、無情に街を濡らしていった。
街灯によって光る建物や地面。
反射した様々な光の中に、
一際目立つオレンジの炎。
燃え盛る炎をゆっくりと辿っていけば、無音だった空間が騒がしくなっていく。
「急げ!早く救急に連絡を!」
「おい!こっちに来てくれ!生存者がいるぞ!」
雨音に混じり、忙しなく動く足音。
それは水溜りを遠慮なく弾き、ビチャリと嫌な音がなった。
無数の光が反射するアスファルトに、赤黒い液体が滲む。
その中心に倒れている1人の女性。
彼女は荒く息を吐きながら、お腹に手を当て苦しんでいた。
事故によってボロボロになった身体。
腕にはガラスの破片が刺さり、頭や胸には痛々しい火傷の跡があった。
「…ぅ…あ……。」
近くにいた人が、応急処置をする為に集まる。
だがその女性を見て、みんなが息を呑んだ。
「おい……待て。
この人……まさか妊婦か?」
1人の男が小さく呟く。
すぐ女性の鞄を見れば、そこには妊婦の証であるバッチが付けられていた。
立派に膨らんだそのお腹は、もう臨月と言っていい。
「だ、れか……助けて………。」
彼女は薄い意識の中で、必死に助けを呼ぶ。
だが周りは誰も手を差し伸べない。
妊婦という重い患者に、下手に手を出してしまったら母子共に死ぬかもしれない。
それが怖くて、周りはただ距離を置いて見ることしか出来なかった。
「すまない、お願いだ。道を開けてくれ。」
だがそこに、1人の男が現れる。
上質なスーツを身にまとった、青髪の男。
男は妊婦の前に現れると、そのまましゃがんで妊婦のお腹に手を当てた。
「……妊婦か。おいアンタ、俺の声が聞こえるか?」
彼女はその言葉にゆっくりと頷く。
その反応に、男は安心したように息を吐いた。
ーーーしかし妊婦の容体を見てみると、彼女の足の間から大量に血が出ている。
それを見て、男は眉を顰めた。
「……まずいな。」
妊婦は必死に息を整えながら、男の顔を見ている。
「……このままだと、アンタとお腹の子は命を落とす。確実に。」
「!!」
「……でも、もしかしたら……」
"お腹の子の命だけは"救えるかもしれない"
その言葉に彼女は目を大きく見開いた。
泣きながら縋るように男の手を強く握る。
「……だがこれは大きな賭けだ。この子の命は救えても、その後の人生は酷いものになるかもしれない。
……それでもいいのか?」
ピタリと、妊婦の動きが止まった。
「………………。」
しかしそれは一瞬で、彼女は歯を食いしばりながら、ゆっくりと首を縦に振った。
「………おねが、……します…っ……!!」
祈るように瞑った顔は、大量の涙と汗でグチャグチャになっている。
「……分かった。」
男は血塗れの手を握り返し、薄い唇を小さく動かした。
ーーーーーー
ーーーー
ザァァァ………
あの日、あの時なんて無ければ良かったのに。
そうすれば、こんな思いしなくて良かったんだ。
「なぁ……、どうして俺を生かしたの?」
焼け爛れた傷は、もう二度と戻らない。
ーーー紅く燃える鉄を握りしめて、少年は雨の中立ち尽くした。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1 / 58