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二。
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ーーーーーー
ーーー
ーーー数時間後。
「2人ともお疲れ様。」
嘘くさい笑みを貼り付けた茶色い髪をした男。
彼は社長用のデスクに座り、手を組みながら慎太郎と冬護を見ている。
「……はは、どうも……。」
「………………………。」
慎太郎は心底疲れ切った顔をしており、冬護は相変わらず冷えた表情だ。
彼らに向かって言葉をかける男は、姫城 智絵(ひめぎ ともえ)。
そんな智絵の側には黒髪で童顔な男、付き人の八月 天笠(やづき あまがさ)が立っていた。
智絵は日本有数の資産家である姫城家の息子。
ーーー今は当主に成るために、いくつか小さな会社の経営を任されている。
そのうちの1つが、警備などを専門としている会社だった。
二条 慎太郎と隣にいる稲月 冬護(いなづき とうご)はその社員。
しかしここはただの警備会社ではない。
警備会社というのは表向きの名前で、本当の目的は違うところにあった。
2人は社長の前で、今回の案件を報告する。
智絵は美しい容姿をふんだんに使い、ニコリと微笑んだ。
「今回も"おとり作戦"が成功してよかったよ。やっぱり戦える十二支(じゅうにし)がいると違うね。
目障りな狩人を討伐してくれて助かるよ。」
「いえ、俺は何も……。」
その言葉を聞いて、慎太郎は乾いた笑みを送る。
ーーー十二支(じゅうにし)。
それは大昔から伝えられてきた、絶大な運を秘めた文字のこと。
子、丑、寅、卯、辰、巳、午、未、申、酉、戌、亥
これらを名前として組み込むことで、その者は富と名声を手に入れることができる。
十二支が1人いるだけでも、その家は繁栄し将来を約束されるのだ。
だが同時にその名を持つと、十二支の名を欲する輩に命を狙われる。
その専門の殺し屋が、
狩人(かりうど)と呼ばれる存在。
彼らは常にチームとして行動し、依頼人から仕事を受けて十二支を狩りにくる。
そしてそれが成功すれば、
依頼人から多額の寄付を貰えるのだ。
ーーーーそんな十二支を守るのが、月華(げっか)と呼ばれる戦闘能力に優れた存在。
彼らは殺し専門の家系"十二ノ月"出身であり、それぞれ苗字の後ろに"月"が付いた。
1つの家系に1人の月華。
月華にはそれぞれ称号が与えられ、
睦月、如月、弥生、卯月、皐月、水無月、文月、葉月、長月、神無月、霜月、師走が存在する。
なのでこれらの称号を手にするには、その家系で1番強くなければならない。
ーーー守られる人間と、守る人間。
謂わば十二支と月華は、互いに無くてはならない存在なのだ。
2人は強い絆で結ばれ、どちらかが欠ければ生きていけない。
十二支は殺し屋によって簡単に命を落とし、月華は理性を失い殺人鬼として狂ってしまう。
ーーーそんな慎太郎と冬護も、十二支と月華の関係だった。
慎太郎が十二支、"辰"の名を持つ者であり
冬護はそれに繋がる月華、"弥生"の称号をもっていた。
「慎太郎は幼い頃から過酷な環境を生きてきただけあって強いよね。」
「いやー……。」
ーーーしかし彼らの場合は、普通の縁と違う部分がある。
智絵は目を細めて、無関心そうにしている冬護に嫌味をこぼした。
「……まぁそれも、月華である冬護が守ってくれないからだけど。」
その言葉に冬護は不満そうな顔で、眉をピクリと動かす。
「何を言ってるんだ姫城。コイツをちゃんとした十二支として扱えと?」
冬護が親指で慎太郎を指差しながら、苛ついた表情で口を開く。
「ふざけるな。コイツはただの"おこぼれ"だろうが。あの事件さえなければ、コイツはただの一般人だった。……いや、違うか。」
彼は冷えた目で慎太郎を見る。
「お前は"この世に生を受けない"人間だったな。」
「…………………。」
それを聞いて、慎太郎はピタリと動きを止めた。
「事故にあった妊婦の子どもを助けるために、二条家唯一の生き残りである巽(たつみ)様がお前に名を与えた。」
冬護は憎しみを込めた目で、慎太郎を睨みつける。
「……十二支の名を受け継いだ者は、たとえどんな形であろうと必ずこの世に生を受けられる。
そしてそれを2人で共有することなど出来ない。」
「……………………。」
「お前のせいで、巽様は自ら命を絶ったんだ。」
その言葉で完全に慎太郎は黙ってしまった。
ーーー冬護の言葉通り、慎太郎は名を受け継ぐべき存在ではない。
本来ならこの世に生を受けることなく、親とともに死ぬはずだった。
しかしそこに十二支であった二条 巽(にじょう たつみ)が通りかかったのだ。
彼の本当の漢字は、巽ではなく"辰御"。
慎太郎は、元は"辰太郎"という名前で受け継がれた。
お腹の子を助けるために、巽は十二支の名を与える。
「そして当時月華だった俺の叔父も、巽様の後を追って死んだ。」
グッと眉を寄せながら、
冬護は吐き捨てるように呟く。
「それなのに何故、俺はコイツを守らなければならない。2人の命を奪ったこのクソ野郎のために。」
それにより彼らの仲はとても悪かった。
しかし仲が悪いからといって、十二支と月華という運命は断ち切れるはずかない。
冬護がどんなに慎太郎のことが嫌いでも、彼は慎太郎から離れられなかったのだ。
「お前のせいで二条家は潰れ、稲月家は本当の主(あるじ)を失った。お前のせいでーーーー「冬護。」
慎太郎に冷たい言葉を吐き続ける冬護に、智絵は笑みを消す。
「冬護それは言い過ぎだ。君は彼の心を本気で潰す気?」
「潰れてもいいだろ。こんな薄汚いガキーーー「冬護っ!!」
智絵の激昂で、彼は舌打ちをして顔を背けた。
「たしかに十二支を継がせる方法は残酷だ。
名前のない人間じゃなきゃ継げないし、前の十二支は命を落とさないといけないからね。」
「…………………。」
「でもそれは巽さんが決めたことだ。お前じゃない。
それにまだお腹の中にいた慎太郎くんに何ができると?」
その言葉でシン…と静まり返ってしまう空間。
「智絵さん。」
突然口を開いたのは慎太郎だった。
彼は固まった表情から一変、へらりと笑ってみせる。
「大丈夫です。俺、もうこの人の言葉慣れましたから。」
「……慎太郎くん。」
「チッ。」
「それにいちいち気にしてたら、この人生やっていけないですよ。」
ニコッと元気よく笑うと、彼は話題を変えるためにパチンと大きく手を叩いた。
「さぁさぁ!話変えましょうっ!
実は俺、今回こんな物を拾ったんですけど。」
そう言って慎太郎は智絵のデスクに、黒い鋼でできた剣を置いた。
それを今までずっと黙っていた八月が近寄り、黒い剣をジッと観察する。
「これは……、狩人が使う専用の武器ですね。」
「え、そうなんですか?」
「はい。持ち手がレバー式になっているのは、彼らの使う武器の特徴ですから。」
「へぇ……。」
八月はそう言うと、剣を持ってレバーを引こうとした。
「待て。」
それを冬護は止めさせる。
「それを引くときは気をつけろ。俺が見た限り、その剣は高温の熱を発する。」
「あ、そうなんだよ。俺もその赤くなった剣で鉄パイプを一刀両断にされた。」
そう言うと、八月は顎に手を添えた。
「ふむ。……なるほど、そうゆう仕組みですか。」
納得した八月に、慎太郎は首を傾げる。
それを見て、八月は簡単な言葉で解説した。
「つまりこの剣は刃だけ高温になるだけでなく、持ち手部分も熱くなるってことです。
素手のまま使用すれば、使い手自身の掌も大火傷してしまう。」
「!!……なるほど!」
「本当は刃だけ高温にさせたかったんでしょうね。……でもあまりの熱に持ち手が耐え切れず、熱を発してしまった。
いわゆる不良品です。」
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