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三。
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「後で処分しておきます。」そう言って八月はその剣をガラクタの入った袋に入れようとする。
「いや、意外にそうでもないかもよ?」
「!!」
それを智絵が待ったをかけた。
「慎太郎。君、そろそろ自分用の武器が欲しいと思わない?」
「えっ、」
「この武器さ、なんか慎太郎に合う気がする。
持ち手とか色々問題はあるけど、使いこなせば相当な力になると思うんだ。」
智絵が八月から剣を回収し、笑顔でこう言う。
「まぁ、持ち手の問題は任せてよ。俺の方で解決させておく。」
「はぁ………。」
「もうちょっと改造したいし……、そうだな……。2週間くらいあれば平気か。」
ボソリとそう言うと、智絵は2人に目を合わせた。
「うん。じゃあ報告も済んだことだし、今日は帰っていいよ。新しい仕事が入ったら連絡するから、それまで2人は休んでて。」
「あ……はい。わかりました。」
「…………………。」
慎太郎は智絵の言葉に素直に従い、冬護はまだ不服そうな顔だ。
彼は素直にお辞儀して、冬護は無言のまま部屋を退室しようとする。
「ん?」
すると智絵のデスクに置かれていた1枚の写真に、慎太郎は目が止まった。
「智絵さん。」
彼はその写真を指差し、智絵に質問する。
「この写真に写ってる人、親戚の方ですか?俺と随分年近そうですけど……。」
その写真には赤髪の少年と金髪の青年の姿があった。
「あぁ、彼らは君たちと同じだよ。
この赤い子が"兎"の名前を持つ十二支で、隣にいる金髪の彼がその月華だ。」
「へぇ……。」
(この人たち、どこかの制服着てる。十二支なのに学校行ってるんだ……。)
ーーーしかもこの2人、すごく仲が良さそう。
慎太郎は自分の着ている服と冬護との関係性を見比べる。
(……俺たちとは全く真逆だな。)
同じ運命のはずなのに、なんでこんなに違うんだろう。
微かに、慎太郎の中で疑問が生まれる。
しかし彼はその思いを打ち消し、深く考えないようにした。
考えば考えるほど、それは底なし沼のように嵌るような気がしたから。
「教えてくれてありがとうございます。では、また今度。」
彼の心情を感じとった智絵は、深く追求せず笑顔だけ浮かべた。
「うん。またね。」
ガチャン
2人がその部屋を去った後、智絵はスッと笑顔を消す。
そして1つため息をついた。
その一番の理由は、慎太郎と冬護の不仲にある。
固く閉ざされた施錠付きのデスクから、蛇の絵がある文字盤と"巴(ともえ)"と書かれた紙を取り出した。
(……俺と八月も十二支と月華の関係だけど、あそこまで仲が悪くなったことはない。)
智絵はグッと背凭れに身体を預け、困ったように八月を見た。
ーーーー彼は"卯月"の称号を持った月華の一人。
「なぁ八月……あの2人、どうなると思う?」
八月は2人が去った扉を真っ直ぐに見つめた。
「このまま仲が悪いと、俺は最悪な結末しか想像できないよ。
こんなこと初めてだし、どう対処したらいいか分からない……。」
疲れたように頭を抱えた智絵に、八月はハッキリと答えた。
「たぶん大丈夫ですよ。」
「……なんで?」
「俺の勘です。……まぁ、」
「??」
ーーーー八月は目を細めてボソリと口を動かす。
「何か変わるきっかけがあれば、ですけどね。」
ーーーーーー
ーーー
バタンッ
古びたアパートに帰ってきた慎太郎と冬護。
帰る場所が無い慎太郎は、智絵の援助でこのアパートに住んでいる。
「た、ただいまー………。」
シンとした空気に耐え切れず、慎太郎はいつものように控えめに口を開いた。
目の前に広がるのは、たった8畳しかない狭い部屋。
置かれているものがあるとすれば、小さなちゃぶ台と布団だけ。
冬護は何も言わず慎太郎の横を通り過ぎ、敷かれたままの布団に横たわり寝てしまう。
「…………………。」
それを見て慎太郎はバレないようにため息をついた。
冬護が布団で寝た場合、慎太郎は彼の半径1メートル以内近づいてはならない。
少しでも近づけば、腕を軽く1本折られる。
慎太郎はしょうがないと言った様子で、いつも通り部屋の端っこに身を寄せた。
ーーー本来ならば豪邸に住み、セキュリティの高い部屋に住まなければならない十二支。
しかし慎太郎は、普通の十二支として継いだ訳ではないので周りから酷く嫌われている。
幼い頃は二条辰御の遺言で、稲月家で育てられた。
だが慎太郎の出生事件のせいで、十二支と月華を失った稲月家からは白い目で見られる。
常に陰口や嫌味を言われ、冷たい視線を浴びる日々。
それに加えて彼らは慎太郎に護身術を習わせるという名目で、毎日彼に暴力を振るった。
それに嫌気がさした彼は16の時、稲月家で出会った智絵を頼り独り立ちした。
そのとき既に慎太郎の月華になっていた冬護。
彼は慎太郎が死ぬとなると自分の精神も壊れると分かっていたので、心底嫌いだったが彼に付いて来た。
最初は高級マンションに住む予定だったが、それを冬護が拒否する。
"こんな奴に、そんな面倒くさいことする必要は無い"
それは慎太郎も同じで、出来るならひっそりと暮らせる場所がいいと言った。
ーーーそれで与えられたのが、このアパート。
古い設計でできているが、実は裏社会で生きる者達の隠れ家として使われていた。
なので周りから場所を特定されづらく、セキュリティも充実している。
しかしそれでも慎太郎たちの存在はバレて、後ろ盾が薄い彼らを狙う狩人が出てきた。
冬護は助ける気がないので、慎太郎は稲月家で培った護身術を使い狩人に対応して見せる。
ーーー殴られ、蹴られ、切りつけられ。
それを無数に繰り返していった結果、慎太郎は他の十二支にはない"戦える力"を身につけた。
それでも完全に倒すことはできず、最後は冬護に命乞いをし助けてもらうのがオチだが……。
簡単に倒されなくなった慎太郎を見て、智絵はとんでも無いことを思いついた。
『ねぇ、慎太郎。ちょっと俺のところで仕事やってみない?』
"雑魚な狩人を片付ける存在、探してたんだよね"
「……………………。」
そして生きるための資金を得る条件の元、慎太郎と冬護は智絵の社員になった。
慎太郎は生きるため、冬護は暇つぶしのため。
慎太郎はふと寝転がる冬護を見て、寂しげに視線を落とした。
(俺、本当にこのままでいいのかな。)
自分の中に広がる不安を隠すように、慎太郎は蹲って腕の中に顔を埋める。
それから2人は何も言葉を発さず、ただ淡々と時が過ぎていくのを待った。
ーーーあるのは青い暗闇と、役に立たない無機質な部屋だけ。
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