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十八。
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*
ーーーそれに比べて、俺たちは……。
ぶにっ
「!?」
そう考えている途中で、名鳥が慎太郎の頬を掴んだ。
「はい、そこで自分たちと比較しない。」
「っ、」
名鳥の綺麗な顔が、慎太郎の瞳に目一杯映り込む。
「動かないで暗いことばかり考えるなんて、一番しちゃ駄目だ。
今は心の距離が離れてるけど、ちゃんとぶつかり合えばきっと何かが変わる。」
「…………………。」
慎太郎はその言葉に目を逸らし、躊躇いがちに喋った。
「………でも俺、冬護とぶつかり合う勇気なんてないよ。」
「…………………。」
「それに、ネガティヴに考えるのが駄目なことくらい分かる。分かるけど…、どうしても考えてしまうんだ。」
膝を強く抱え込んで、慎太郎は目を伏せる。
「俺とあの人の距離は、絶対に縮まらない。動いたってきっと無駄になる……。」
ーーー今までだって、そうだった。
彼と顔を合わせれば、毎回嫌な顔をされて陰口を叩かれる。
"お前のせいで、狂ったんだ"
会えば会うほど、俺の心は痛んでいく。
"お前がいたから"
"お前がいなければ"
ーーー"叔父も巽様も、生きてこれたのに"
「っ、」
顔を腕の中に埋めて、慎太郎は震える声で言葉を紡いだ。
「……俺が、あの人の大切な人たちを奪ったんだ。」
何度も植えつけられてきた、呪いの言葉。
たくさんの人が、色んな言葉で、俺の存在を憎み否定してくる。
「俺がこの世に生まれるために、2人の命が犠牲になった……。
……その罪滅ぼしをしたくて、智絵さんの仕事を引き受けたけど……駄目だった。」
何度ボロボロになって狩人を倒そうとも、1人で戦える人間になろうとも、あの人の気持ちは変わらない。
平気な顔で、俺の心を抉ってくる。
「もう笑顔で誤魔化すのは疲れた……死にたい。」
生まれてきてから17年間、慎太郎はずっと恨まれ続けてた。
周りからの陰口は絶えないし、嫌がらせもたくさん受けてきた。
それは今でも、その過去が彼の中で息づいている。
「ごめん……、ネガティヴになっちゃ駄目なのにな。
……ほんと、ごめん…っ……。」
籠った声で、慎太郎はさらに身体を縮こまらせた。
名鳥はそんな彼の姿を見て顔を歪ませる。
彼はそっと手を伸ばし、慎太郎の身体を包み込んだ。
「っ、」
「今まで君は……こんな辛い苦しみを1人で抱えて生きてきたんだね。」
一定のリズムで優しく背中を叩く。
まるで赤子をあやす母親のように、彼の心を落ち着かせようとした。
「大丈夫、大丈夫だよ。」
その暖かい温もりと音が、次第に慎太郎の心を癒していく。
「………な、とり……。」
「ごめんね、ひどく傷ついている君に僕はこんな言葉しか掛けられない。」
「………………。」
「でも酷いようだけど、僕は何度だって同じ言葉を言うよ。」
名鳥は慎太郎の顔をつかみ、顔を上げさせる。
涙で濡れた情けない顔が、名鳥の澄んだ瞳に映った。
「暗いことばかり考えないで。ちゃんと前を見て、冬護くんとぶつかるんだ。」
「っ、」
「だって君の人生を変えることができるのは、君自身でしかできないから。」
「!!」
涙で溜まった目尻を名鳥は親指で拭う。
「この世界で生きるのはすごく苦しくて、辛い。
死ぬことで逃げたくなるけど、それは命を懸けて君を救ってくれた人たちに失礼だよ。」
名取は強い意志を込めながら、慎太郎にある言葉をかけた。
「慎太郎、強く生きるんだ。」
慎太郎は目を見開き、揺れる瞳から涙が溢れる。
「君は1人じゃない。僕や葵がいる。智絵さんたちだっている。
これから先、生きるのを諦めなければきっと、君には色んな絆が増えていくはずだよ。」
ニコリと名鳥は笑って、自分自身に指をさした。
「だってほら、現に僕たち友達になれたじゃない。」
「っ!!」
その瞬間、真っ暗な慎太郎の中に小さな灯火が宿った。
それは絶望でしかなかった自分の人生に、希望ができた証。
名鳥は慎太郎の手をとって、一緒に立ち上がらせる。
「だから、ちゃんと足を踏みしめて前を向こう。
慎太郎なら絶対できる。冬護くんとの心の距離、少しづつでいいから縮めていこう。」
朝の日差しが窓から入ってきて、名鳥の笑顔を柔らかく照らす。
「なんてたって君は、僕の自慢の友達だからね。」
それを見て、慎太郎は心の中で何かが変わった気がした。
「……………………。」
ーーーそれはまるで、黒く塗りつぶされた心が洗われていくような感覚……。
ヴーーー、ヴーーー。
「「!!」」
すると突然、慎太郎のポケットにあったスマホが震えた。
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