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三十四。
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*
「っ!!」
慎太郎の言葉に、耳を疑う葵。
名鳥も目を見開いて、固まっている。
「嫌だと言ったら、葵さんはどうしますか。」
バッ!!
そう言いながら慎太郎はフードを下ろし、カツラを脱ぎ捨てた。
コンクリートの地面に、名鳥と同じ色をした髪が落ちる。
邪魔な長袖のシャツを捲り上げ、彼は大きなギターケースを背負いこんだ。
ーーー黒い髪に、澄んだ青の瞳。
それを見た瞬間、拘束されていたトウヤは一瞬目を見張り、その後すぐに口角を上げた。
慎太郎はゆっくりと、智絵の側を通りすぎる。
「………智絵さん。名鳥の事を頼みます。」
すれ違いざま、彼は小さな声で呟いた。
それを聞いて、智絵は驚いた顔で慎太郎を見る。
彼は血で汚れた口元を拭い余裕そうに笑った。
「葵さん。俺も一緒に手伝いますよ。」
「慎太郎くん……。」
「その方が絶対手っ取り早いです。」
パチンッ
そう言って慎太郎はギターケースの金具を外した。
ビュンッ
ケースから飛び出してきた黒剣を、彼はいとも簡単に掴んだ。
「ちょうど俺も練習相手が欲しかったところですから。」
明るく振舞って話すが、彼の本心は真逆でとてつもなく怖がっていた。
見るだけで分かる。ミカヅキとトウヤが自分より遥かに強い存在くらい。
でも俺は絶対失いたくないんだ。
どれだけ過酷な戦いになろうと、痛ぶられようと、友達を守る。
手汗が滲む手で、慎太郎は力強く剣を握った。
「智絵さん!八月さん!冬護さん!名鳥!!」
彼は後ろを振り向かず、智絵たちの名前を呼んだ。
名前を呼ばれた名鳥は、驚いた表情で慎太郎を見るしかない。
「皆さん、俺たちを置いて逃げてください。」
情けない声にならないよう、慎太郎は気を集中させて声を放つ。
「葵さんは俺が守ります。生きて帰ってきます。だから安心して、早く逃げてください。」
心の中で彼は名鳥を想い、語りかけた。
(安心しろ、名鳥。
失敗しても、葵さんだけは必ず生きて帰すから。)
覚悟を決めて、慎太郎の身体に力が入る。
ポンッ
「っ!?」
すると強張った肩に、
大きくしっかりとした手が乗る。
後ろを振り向くと、そこにいたのは冬護だった。
「俺も残る。」
「……え?」
「要はコイツらを倒せば解決すんだろ。 なら早く済ませるぞ。」
「はぁっ!?冬護さん、何言って……、」
こんなの生まれて初めてだ。
冬護が自分と一緒に戦ってくれようとしている。
初めての事で、慎太郎は頭が混乱した。
「いやいや!貴方は逃げてくださいよ!!貴方は名鳥をーーーブッ!?」
戸惑った慎太郎の顔面を、冬護は手で押さえる。
その衝撃で、彼の鼻にツンとした痛みが走った。
「ゴチャゴチャうるさいぞ。俺が決めたことだ。雑魚が口出しすんじゃねぇ。」
「……ごめんなひゃい。」
顔面を掴まれながら、慎太郎は反省の言葉を口にする。
冬護は珍しく真剣な瞳で、智絵を見た。
「そう言うことだ。智絵。俺はここに残る。」
「…………。」
彼の意志をくみとって、智絵は顔を引き締めて頷いた。
「……わかった。3人とも、死んだら承知しないからね。」
「出来る限りな。」
それを合図に、智絵と八月は名鳥を連れて外に出る。
「………………。」
名鳥は何も声を出せず、葵と慎太郎たちの姿を見送ることしか出来なかった。
逃げ出した智絵たちに、ミカヅキは笑顔でそれを見送る。
トウヤも同様、葵の拘束から抵抗しない。
冬護は嘲笑いながら、ミカヅキに問いかけた。
「……追いかけないのか?」
「まーな。俺はただ戦いたいだけだし!」
ガンッッッッ
彼は地面に金棒を叩きつける。
「命をかけて戦ってくれる相手がいればいーや。それに順番なんて関係ねーし!」
ミカヅキの腕力は凄まじく、コンクリートの床が簡単にヘコんだ。
ニッコリと、彼は満面の笑みでこう口にする。
「どうせ俺が全員ぶっ殺すから。」
それはとても冷たく、感情がこもっていない声だった。
ゾクッ
その声と笑顔に、慎太郎は身体を震わせた。
とてつもない狂気を放ったミカヅキに、全身から汗が吹き出る。
(……これは本気で戦わないと絶対に死ぬ。)
カタカタと剣を持った手を震わせる慎太郎に対して、冬護は余裕の笑みを浮かべた。
「へぇ、えらく自信ありげだな。」
2人は楽しげに笑いながら、見つめ合う。
「お前がこの俺を?やってみろよ。」
その様子を見て、慎太郎は冬護に違和感を感じた。
(……なんでこの状況で笑ってられるんだよ。)
これが計算と才能の差なのか。
やはり月華は違うんだと、この場で見せつけられる。
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