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三十七。
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*
「はぁっ……はぁっ……!!」
葵は首筋を抑えながら、物陰に隠れていた。
「……っ」
荒くなる息を押し殺し、自分の気配を消す。
(しばらくの間、アイツの目は使い物にならない。その間に何か対策を……。)
いくつもの作戦を巡らせようとするが、頭が熱く考えることができない。
「……血の出し過ぎか……?」
止まらない血を見て、葵は顔を顰めた。
(……クソッ。子どもだと思って油断した。アレはもう子どもじゃない。……プロだ。)
彼は痛みや出血に全く動揺がない。
それは彼がもっと幼い頃から、これより酷い痛みや苦しみを受けてきたからだ。
(でなければ、あの傷で動ける方がおかしい。)
それに金髪の子ども同様、彼は戦いに執着している。
「………一体何者なんだ。」
新月会とは……、
その幹部である月影とは一体……。
「……とりあえず、まず血を止めなければ。」
葵が何かで止血しようと懐を探った時に、カサリと紙の感触がする。
「っ!!」
ーーそれは名鳥が慎太郎のために書いた手紙だった。
その瞬間、葵の脳裏で名鳥の姿が思い浮かぶ。
(………名鳥様。)
ギュッ
葵は無意識に手紙を強く握りしめていた。
「さぁ、どこに隠れているのですか?私はここにいますよ。」
「っ!?」
その声に、葵は大きく目を見張る。
物陰から僅かに顔を出し、見てみるとトウヤが歩く姿が見えた。
(なんだと……!?早い…あまりにも早すぎるぞ!)
閃光弾を浴びた目は、短くても数十分回復に時間がかかる。
それに強烈な光を直接くらえば、歩くのですらままならないはずだ……。
なのに彼は、数分経たずに歩き出した。
(………人間ではない。)
あれだけ優秀とうたわれた葵でさえも、彼は化け物のように見えてしまう。
いくら傷つけても、傷つけても、彼は無理なく起き上がり立ち向かってきた。
今も彼は血を流しながら、平然と歩いている。
「どこにいますか?出てこないつもりですか?」
それにあの一帯には、満遍なく罠を張っていったはずだ。
なのに爆発音ひとつもしない。
(……おかしい。不発の罠を仕掛けるような馬鹿な真似、俺はしない。)
するとトウヤが歩く数歩先に、爆発トラップの糸が仕掛けられてあった。
気づいた様子なく、彼はそのトラップに向かって歩いていく。
(あともう一歩踏み出せば、俺の爆発トラップが発動し行動不能になるはず……。)
ピタッ
しかしトウヤは、その一歩手前で止まった。
「ふむ……なるほど。ここら辺ですかね。」
「!?」
するとトウヤは、葵のトラップをいとも簡単に見つけだし瞼の閉じた目で操作を始める。
(まさ、か…………嘘だろ………。)
カチャンッ……
「はい、解除完了です。」
使えなくなった罠は、無様にコンクリートの地面へと転がった。
それを見て、葵は一言も声を発せない。
「もう貴方の仕掛けはお見通しですよ。だから目眩ししないで、大人しく出てきてください。」
(……あれは……あのトラップは、子どものおもちゃの様に簡単に解除できるものではない。)
難解な計算式で出来たトラップを、彼はいとも簡単に解いてしまったというのか……。
それに俺が仕掛けた位置でさえも、彼は的確に見つけ出してみせた。
「………クソッ……!」
一体どうなっている……。
葵は冷や汗をかきながら、スーツから新たな爆弾を取り出した。
それを投げようとした瞬間、彼は動きを止める。
ドクンッ……
「……ッ……!?」
心臓が強く鷲掴みされたような、感覚だった。
葵は胸の中心を強く掴み、爆弾を手放し蹲る。
カランッカランッ………、
爆弾は音も立てて転がっていき、やがてトウヤの足元に辿り着いた。
「……っ!!」
顔を歪めトウヤがいたところに目を向ければ、そこに彼の姿はない。
「見つけましたよ。」
はっきりと声が聞こえたのは、葵の背後からだった。
バッ!!
後ろに振り向けば、トウヤは笑顔で黒のナイフを向けている。
「っ!!」
葵は咄嗟に反応しようとして、腕に力を入れた。
ガクッ
しかし腕が全く動かない。
脚も同様、全身に力が入らなかった。
「……っ!?」
トウヤはそれを見て、今までで一番嬉しそうな顔で微笑む。
「やーーっと、効いてくれましたね。」
葵の心臓に目掛けて、彼はナイフを振り下ろした。
「さようなら。」
ザクッッ
真っ赤な鮮血が、
コンクリートの壁や床を濡らしていく。
視界は残酷な赤へと染まった。
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