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五十。
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*
ザァァァァッ……
勢いよく降る雨。
濡れたアスファルトに、幾つもの水溜りができる。
駅前で宝くじを売っているおばさんは、頬杖をついて受付口からジッと雨を見つめていた。
「すごい雨ね……。ゲリラ豪雨かしら……。」
ため息を吐くように呟くと、いきなり彼女の前に人影が現れる。
「きゃぁっ!?」
急に現れた人間に、おばさんは驚いて声が出てしまった。
「ごめん、おばさん。驚かせちゃったね……。」
「あら!シンちゃん!」
しかしその正体は、いつも宝くじを買いに来ていた慎太郎だった。
「もぉ、驚かさないでよ。おばさん、ビックリしちゃったじゃない。」
「ごめんごめん。」
「それより、どうしたの!?服がびしょ濡れじゃない!それに頰っぺたのガーゼ!誰かに殴られたの!?」
彼女は雨で濡れ、傷だらけの慎太郎を見て目を見開く。
「あはは……。違う違う。……これは最近、階段から転げ落ちてできた傷。」
「……え、そうなの?すごく痛そうよ。」
「もう痛くないから平気。」
それを聞くと、おばさんは安心したように息を吐いた。
そして慎太郎に向けて、軽く説教をする。
「まったく!若いんだからってボーッとしちゃダメよ、周りには気を付けなさい。」
「……はい、ごめんなさい。今後気をつけます。」
反省した様子の慎太郎を見て満足した彼女は、何も持っていない手ぶらの彼をジッと見つめた。
「それで……あなたは今日、傘持ってこなかったの?」
「ちょっと急いでてさ…。忘れちゃった。」
力無く笑う慎太郎。
その姿はいつもよりだいぶ元気がない。
「何してるのよ。それじゃあ風邪引いちゃうわ。」
「大丈夫。俺若いし、風邪引いてもどうにかなる。」
「あ、今日おばさん傘2本持ってるわよ。使う?」
彼女の言葉に、慎太郎は緩く首を横に振った。
「大丈夫、気持ちだけ受け取っておくよ。俺、宝くじ削ったらすぐ帰るし。」
「……そう。」
そして彼は、ポケットから数百円の小銭を取り出す。
1という数字を人差し指で表して、彼は笑った。
「じゃあおばちゃん、いつものヤツ1枚くれる?」
ーーーーー
ーーー
誰もいない広大な敷地。
「…………………。」
雨に激しく打たれながら、慎太郎はその場に立ち尽くした。
手には先ほど駅前で削った宝くじがーーー……。
インクが滲んで見えにくいが、その文字は"特賞"と書かれている。
「…………本当、面白いよな。この運命は。」
慎太郎は悲しげに嘲笑い、ギターケースを肩から下ろした。
アスファルトの水溜りに、ギターケースが沈んで水滴が飛び散る。
その衝撃によって、金具の鍵が外れた。
ガコンッ
勢いよく出てきた黒剣を、慎太郎は迷わず掴み取る。
「ーーーーー……………。」
シャワーを浴びるように、慎太郎は濁った空を見上げた。
濡れた前髪のせいで、彼の表情は全て隠される。
「……なぁ、そこにいるんだろ。冬護。」
慎太郎は空を見上げたまま、唇だけを動かした。
「…………………。」
その言葉通り、慎太郎の背後には少し距離を離して冬護が立っている。
ザァァァァッ
ーーー激しく降る雨音が、2人の空間を支配した。
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