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五十一。
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*
カチカチッ!!
「!!」
慎太郎は躊躇いもなく、素手で黒剣のギアを上げる。
瞬時に刃は赤く染まり、雨で蒸気を発生させた。
ジュゥゥゥ……ッ、
同時に熱伝導で剣の持ち手が、慎太郎の掌を重く焼き尽くす。
ーーーあの日、あの時なんて無ければ…。
「……………………。」
慎太郎は自身の人生を振り返り、自分を産んだ母に疑問を感じた。
その根源は冬護にも言えることで、慎太郎は重い唇をゆっくりと開く。
「……なぁ、」
ーーーねぇ、
「どうして俺を生かしたの?」
ーーーどうして俺を産んだの?
「そうしなければ、」
ーーーそうしなければ、
「"俺はこんな思い、する事はなかったのに。"」
「っ、」
その言葉が、冬護に向かって重くのしかかった。
赤く燃える鉄は、未だに蒸気を発している。
「……俺ね、ずっと考えてたんだ。」
「なんで名鳥と葵さんが、アイツらに殺されなきゃならなかったんだって……。」
光を失った瞳は、曇天を映し…
「どうして俺たちは、こんな辛く苦しい思いをしなきゃいけないんだって……。」
彼から流れる水たちは、暗闇の地に落ちた。
「その答えは、とても簡単だ。俺たちが十二支だから。」
朽ちる赤い掌、
「この名前がある限り、俺たちは呪縛から逃れられない。」
頬に残る火傷の痕。
「……でもさ、だったらアイツらは何なんだ。
学校にも行って、汚いことは全部月華に任せて、のうのうと生きるアイツらは何だ?」
瞳の奥に、怒りの色が灯った。
「………全然違うじゃないか。生まれも、境遇も、全て…。」
それは表情にも現れていき、慎太郎の眉や目が深く歪んでいく。
「……そんなの、絶対おかしいだろ。」
怒りの籠った声で、慎太郎は空に向かって叫んだ。
「十二支は全員平等であるべきだ!!一部の人間だけが幸せになるなんて許せないっ!!」
ガンッッッ
その激しい感情をぶつけるように、慎太郎は地面に赤い剣を突き刺す。
そして彼は顔を俯かせて、小さく喋った。
「……だから俺は決めたんだ。十二支は全員、この剣で焼き切ってやるって…。」
蒸気する赤い刃を見て、慎太郎は無の表情を見せる。
「俺が十二支をこの世から消すんだ。」
狂気を覗かせる暗い瞳に、冬護は言葉を詰まらせた。
「お前…っ…、」
「また俺を止めるの?冬護。無駄だよ今回は絶対引き下がらない。」
スッ
慎太郎は自らの首筋に、赤い刃を近づける。
「止めたいなら、俺を殺すしかない。」
「っ!?」
「俺の決意を否定するなら、俺は今ここで命を絶つ。それが嫌なら、放っておいてくれ。」
「……………。」
それを聞いて、冬護は苦虫を潰すように顔を歪めた。
その場から一歩も動かない冬護。
「……………。」
何もしない彼を確認して、慎太郎は赤い刃を下ろした。
カチカチッ
黒剣のギアを、一番最初の0段階に戻す。
「よかった。俺を理解してくれたんだね、冬護。」
彼は少しだけ笑顔を見せた後、黒剣をギターケースにしまおうとした。
「……慎太郎。お前は智絵も殺す気なのか…?」
「…………………。」
冬護の問いかけに、慎太郎はピタリと動きを止める。
少し間を空けた後、彼は口を開いた。
「……あの人は、"最後の方"にするよ。」
そう言って彼は動きを再開し、黒剣をギターケースにしまう。
カチンッ
金具で鍵をした後、慎太郎はギターケースを肩にかけた。
「最初に葬るのは、もう決めてある。」
そう言って彼は、足を一歩前に踏み出した。
「………地獄に落ちたっていい。人を殺める覚悟は、もうできてるから。」
「…………………。」
雨に打たれながら、慎太郎の後ろ姿を見る冬護。
その濡れた背中は、怒りと悲しみで満ち溢れていた。
「……………………。」
(………十二支全員ということは、慎太郎……。お前も最後……。)
ギリッ
その意味を悟った冬護は、眉間を寄せ手を強く握りしめる。
歩く慎太郎の後ろ姿を、彼は強い眼差しで見つめた。
ーーー
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