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五十三。
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*
ーーーーー
ーーー
"どうして俺たちだけ、
こんな目に合わなきゃいけないんだよ…っ…!!!"
あの言葉が、智絵の中で何回も再生される。
「……………これは、」
目の前に広がる光景に、智絵は目を見張った。
そこには、酷く荒らされた智絵の事務所があった。
床に本や資料が散乱し、引き出しや棚は全て開けられている。
厳重に管理していた機密事項の資料も金庫が開けられ、もぬけの殻だった。
「…………………。」
八月が目を鋭くさせ、人の気配がないか探る。
(………誰もいない。)
彼は荒らされた部屋を見渡し、犯人の手掛かりとなるものを探した。
「!!」
すると智絵のデスクを見た瞬間、彼はある物がなくなっていることに気づく。
「……"彼ら"の写真が、ない……。」
そう思った瞬間、八月は何かに勘付いて智絵の方に振り向いた。
「智絵さん!今、慎太郎と冬護に連絡はとれますか!?」
「…!!」
そう言われて、智絵も八月が考えていることを察知する。
急いで携帯で慎太郎たちの番号をタップし、彼らに電話をかけた。
「…………………駄目だ、どっちも通じない。」
それを聞くと、八月は深刻な表情になる。
智絵と八月は互いに顔を見合わせた。
「「…………………。」」
事態は最悪な方向に向かっている……。
ーーーーー
ーーー
バンッッ
連絡が途絶えてすぐ、智絵たちは2人の住む住居へと向かった。
しかし、中はもぬけの殻だった。
部屋を手当たり次第探るが、手掛かりとなるものは一切残されていない。
ーーーただ唯一残されていたとすれば、慎太郎がいつも身につけていた赤いヘッドホンだけだ。
「……………。」
智絵は力なく、その場で膝をつく。
ーーー確信してしまう、一つの事実。
(慎太郎と冬護は、十二支を殺そうとしている……。)
ーーーしかも標的は、おそらく"あの2人"だ。
「………っ、」
自分の愚かさに、吐き気がする。
"あの日、僕は慎太郎に何もできなかった"
絶望に打ちのめされた彼を、僕はただ見てることしかできなかった。
深い傷を負ってしまった彼を、どう慰めたらいいか分からず、傷が癒えるまで冬護に任せてしまった。
「………………。」
ーーーそんな自分が、今はとても憎い。
(……情けない。僕が1番年上なのに……。)
智絵が目元を隠し俯いていると、側にいた八月は自分の手を力強く握りしめていた。
「……………………。」
ポタッ……
あまりの力強さに、彼の手から赤い血が流れる。
2人の空間に、静寂な時間が流れた。
ーーーーーー
ーーー
「…………………。」
それから暫くして、智絵は顔を上げた。
「……止めなければ、彼らの暴走を。」
ポツリと呟いて、智絵は立ち上がる。
「いつまでも後悔してたって、事態は何も変わらない。」
ゴソッ…
智絵はポケットから、ビニールケースに入ったメモを取り出した。
そこには、黒い三日月のマークが描かれている。
(………新月会…、月影……。アイツらは一体何者なんだ……。)
彼らの雰囲気は、月華と似ている部分があった。
狩人とは違う、歪な何か。
「あの結束力は、即興でつくれるものじゃない。…きっと、昔から存在していたものだ。」
(だとすると、十二支と月華は昔から新月会と何か接点があったかもしれない。)
「八月、行くよ。」
智絵は踵を返し、すれ違いざま八月に声をかけた。
彼はハッと意識を取り戻し、智絵の方に振り返る。
「…………………。」
(きっと慎太郎たちは、すぐに行動したりしない。)
何故なら、
殺す標的があまりにも大きすぎるから。
(やるなら綿密に計画を立てて、実行に移したいはずだ。)
ーーー最短でも2〜3年。
それまで彼らは姿を現さないだろう。
バタンッ
智絵たちは直ぐさま、運転者付きの車に乗った。
そして実家である姫城家へと向かう。
走行中、智絵の手には慎太郎の赤いヘッドホンが握られていた。
「………今度こそ、絶対に止めてみせる。」
窓の背景を見ながら、彼は決意の言葉を呟いた。
ーーーーーー
ーーー
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