アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
1
-
あれから十年の月日が経った…
一年間留年しただけで、他にはこれといって大きな出来事もなく、まさとがいなくなった大学を複雑な気持ちで卒業したゆうも、今ではすっかり社会人になっていた。
高校教師。
これがゆうの肩書きだ。
突然学校を辞めてしまったまさとが、その後どこでどうしているのかをゆうは知らないまま大人になった。
知りたくないわけではなかったが、何もいわずに家を出て行ってしまったまさとを自分から探すことが躊躇われたのだ。
ただ時々さとるさんのBARに赴いて、思い出話に花を咲かせるだけ咲かせては、無性にまさとが恋しくなるということをゆうはこの十年の間繰り返していた。
家に帰り、唯一置いて行ったマグカップを眺めて溜息をつく。
それが苦しくもあり、ゆうにとっては幸せな時間だった。
「このままじゃ一緒にはいれない」
そういって家を出て行ったまさと。
結局ゆうはまさとの信頼を勝ち得ることができなかった。
そしてそんなまさとに未練たらたらの日々を未だに過ごしている。
今日だけ、明日までと言い続けながら十年。
いい加減自分でも疲れてしまった。
ここまでくるとこれが本当に恋愛感情なのかどうかも怪しく思えてくる。
もしかしたら恋愛が成就しないままこの世から去っていった亡霊に取り憑かれているだけなのかもしれない。
でもそれでもよかった。
まさとと一緒に過ごした時間は間違いなく幸せだったから。
その思い出に浸れるだけでも十分ゆうは幸せを感じていた…
といってもこれまでまさと一筋でいたわけではない。
今度こそまさとより好きになれるかも…と期待をしながら新しい恋人をつくったりもした。
みんないい人たちで、自分のことを大切にしてくれて、それはそれで幸せな時間だったけど、でも結局長くは続かなかった。
なぜならまさとより好きになれなかったから。
最低な言い訳だと、自分でも思う。
でも本当にダメなのだから仕方ない。
まさとにもう一度会いたい…一目でいいから。
そしたら吹っ切れることができるかもしれない。
お願いだからもう一度だけ。
恋人と別れたばかりのゆうは益々その思いを強くしていた。
「会いたいよ〜ヒック」
グラスに残るカクテルを一気に傾け、ゆうはカウンターに突っ伏した。
この十年の間に酒もすっかり飲めるようになった。
でもここに来たら気分に合わせてさとるさんにカクテルを作ってもらうと決めている。
「帰ってくるみたいだよ」
唐突に耳にねじ込まれたその言葉を、危うく聞き損ねそうになってゆうは反射的に飛び起きた。
「あいたた…」
頭がぐわんっとして慌てて額を押さえる。
どうやら寝不足がたたっているらしい。
今日はいつもよりアルコールの回りがいいようだ。
とりあえず明日が休みでよかったとしょうもないことを思う。
「えーっと…誰が?」
「誰がって、まさとだよ。それで飛び起きたんじゃなかったの?」
カウンター越しにさとるさんが微笑んでいる。
「まさ、と…まさと…ぇえ!!」
まさとの名前が脳内を一周した途端、閉じかけていた目が一瞬にして覚めた。
「帰ってくるって…どこから?」
「イギリスだって」
「イギリス!?え、いつ!?」
「明日」
「明日!?」
オウム返しにビックリするゆうを見て、カウンター越しのさとるさんは我慢ならないといった様子で声を立てて笑った。
さとるさんは十年経っても変わらない。
それが何よりも安心させてくれる。
まさとは…
まさとはどうだろう。
ゆうは時計を外した手首を見つめた。
あの時の傷は今ではパッと見では気にならないほどになっている。
傷跡が消えていくにつれ、心の傷も癒えていった。
いや、癒えるというよりは忘れたといった方が正しいだろうか。
それでも精神的に成長したのは確かで、ゆう自身この十年の間に少なからず変わった。
まさとだって…
突然もたらされた情報はゆうの妄想を刺激するには十分だった。
明日帰ってくるからといって会えるわけでもないのに、一気に緊張と興奮で胸が高鳴る。
同時に、冷めていたアルコールが再びゆうの体内をぐるぐると回り始めた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1 / 24