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どうしようどうしようどうしよう…
ゆうの頭の中にはどうやらその単語しか入っていないらしく、あの後どうやって家まで帰ったのか記憶がないくらいに頭の中はどうしようでいっぱいだった。
明日?まさとが帰ってくる?
どうしよう…
さとるさんからきいた話によると、まさとはイギリスで何かの勉強をしていたらしい。
そしてこの度どうやら日本に帰ってきて店を出すことになったとか。
さとるさんも急に連絡を受けたようで、初めは俄か信じられなかったんだそうだ。
そして昨日は自分のことを驚かせるタイミングをずっと狙っていただなんて…まったくもってたちが悪いというか…
ビックリし過ぎて一気に酔いが回ってしまったせいで、今朝はしっかり二日酔いだ。
今度さとるさんに会ったら絶対文句をいってやろうとゆうは無駄に息巻き、再び布団に入る。
こういう日は大人しくしているに限るのだ。
それにどうせまさとにだって会えないのだから…
「まさか海外に行っていたなんてな」
白い天井を見ながらゆうはポツリと呟いた。
あまり天井にはいい思い出がない。
それでもこの十年で大分一人にも慣れていた。
これから先、死ぬまで一人かもしれないと思うと、幸せな時間を知っているだけに寂しくもあるけれど、でもその寂しさを受け入れる準備はこの十年という月日の中でゆうの中に少しずつではあるができてきていた。
さとるさんがまさとは店を出すといっていた。
それは何よりも順調な証拠だ。
まさとは今幸せだろうか。
幸せでいてくれないと困る。
元々まさとはノーマルな人間だった。
それを自分がこっち側に引きずり込んだのだ。
だから自分と離れてノーマルに戻るのは当然のことで、もしかしたらイギリスで素敵な人と出会っているかもしれない。
頭ではわかっている。
わかっているけど考えると胸が痛かった。
会いたいけど会いたくない。
会って普通でいられる自信がない。
会えば絶対にまさとを困らせてしまうだろう。
でも日本に帰って来たということは、これからはずっと日本にいるということで、さとるさんのBARに行き来している以上、いつかはきっと会ってしまう。
二日酔いの頭が割れそうだった。
薬を飲んでも全く効きやしない。
もう少し心の準備が必要だとゆうは思った。
現実を受け入れる時間が必要だと。
…………………
いつの間に寝てしまっていたのだろう。
電話の鳴る音でゆうは目を覚ました。
液晶にはさとるさんの名前が表示されている。
BARの番号ではない。
個人の携帯からだ。
心臓がドクンッと跳ねた。
緊張で喉が引きつる。
「…は、い…」
唾を飲み込みゆっくり電話を耳に充てる。
「あ、ゆうくん?」
「っふぅ〜」
想像していたのと違う声に、がくりと力が抜けた。
「さとるさんか…」
思わず本音が漏れてクスリと電話の向こうで笑われた。
「ごめんね、まさとじゃなくて」
「あ、いえっそういうわけじゃ、、」
慌てて否定したところで、今さらさとるさんを誤魔化すことなんてできない。
どうせ自分の考えなど全てお見通しなんだろうとゆうは苦笑した。
「いや、いいんだけどね、そのまさとのことで電話してるわけだし」
「え…」
素直に反応してしまってうな垂れた。
クスリともう一度笑うさとるさんの声が電話越しにきこえてくる。
「ゆうくんのそういう素直なところが好きだよ」
さとるさんの好きは今となっては挨拶のようなものだ。
あの日以来特別な関係はない。
BARのマスターと客という以上には親しい関係だけれど、でもそれは友達の枠を出てはいない。
「いやね、今夜うちでまさとのお帰りパーティーをしようと思ってね。もう十年も経つけど、ありがたいことにゆうくんみたいにまさとがまだうちで働いてる頃からの常連さんもいるから。こうして声を掛けてるんだ。まぁパーティーなんて言ってるけどそんな大層なものじゃないんだけどね」
まさとは大学生の頃、さとるさんのBARで働いていた。
これも懐かしい思い出だ。
「まさとは…ちゃんと来るんですか?」
俺が何をいいたいのか察したのだろう。
さとるさんが苦笑するのがきこえた。
「そうだね、来てくれるらしい。この間もらった電話でね、和解したんだ。もう十年だからね…二人共いい大人だよ」
「そう、ですか…俺は…」
「わかってる。無理にとはいわないけど、よかったら顔出してよ。誰よりも一番まさとと会いたがってたのはゆうくんだから」
「…ですね、、」
二人共いい大人…
そうだ、俺たちだってもう立派に大人なのだ。
感情だけでどうこうということはないだろう。
そもそもまさとはきっともう割り切っている。
気にしているのは俺だけなのだ。
「わかりました…考えておきます」
「よかった、、そしたらちょっと早いけど八時開始だから。気が向いたらいつでも来てね」
「…はい」
電話が切れる。
俺はしばらく画面の暗くなった携帯を布団の中で握っていた。
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