アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
兄
-
「すまなかった」
予想外の素直な謝罪に、直ぐに言葉がでなかった。
言ってやろうと思ったことは山ほどあったが、何一つ言葉にならない。
時間にするときっと一瞬の間だった。
こちらを強く見つめる目から逸らせないまま、美しい中庭に不釣り合いな着信音によって、その空間は打ち切られた。
聞き馴染みのない音楽は、アイツのもので。
こちらに背を向けると、イラついた様子で電話をとる。
「手短にしてくれ。今忙しい」
しばらく呆然としていたが、どんな嫌いなやつに対してでも、俺にだって常識はある。
電話の内容を聞かないように距離をとろうと歩き出した。
「どこに行くんだ。」
そう呼び止められ、思わず振り返った。
「別に、どこにも行かないけど…
話聞いちゃ悪いかなって…」
よく見ていないと気づかないほどの変化だったが、ほんの少し安堵した表情を浮かべると、通話を終えこちらに向かってくる。
ただ歩いてくる、それだけの動作なのに。
とめどなく流れる水の音が、アイツのためにあるようだった。
太陽の光を浴び、キラキラと輝く噴水も、青々と生い茂る木々も。
全てがアイツのためのものだった。
思わず見とれたその瞬間
「お前の知らない優のこと、知りたかったらついてこいよ」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
36 / 42