アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
弟
-
走って、走って
喉が焼けるように痛む。足が鉛のように重い。
それでも走ることだけは止めなかった。
駅のホームに滑り込むと、発車間際の電車に飛び乗る。
終電近くの車内には、気持ちよさそうに寝こけているサラリーマン。イヤホンをつけ自分の世界に入り込んでいる人。
いつも通りの光景に、何故か酷く安堵した。
そのまま吸い寄せられるように腰を下ろすと、張り詰めていた糸が切れたのか、猛烈な眠気におそわれる
考える間もなく、意識を飛ばしていた。
「ねぇ、起きて」
微睡んだ意識の中、聞き馴染みのない声。
そのまま緩く肩を揺すられる感覚に、そっと瞼を上げる
そこには、心配そうにこちらを見つめる2つの瞳があった。
「大丈夫?ごめんね、辛そうにしてたからつい起こしちゃった」
そう言ってハンカチを渡され、自分が泣いていたことに気づく。
「あ、ありがとうございます…」
断るのも悪いと思い、そのまま受け取ると、隅に可愛らしいチューリップの刺繍が施されていることに気づく。
「可愛い、ハンカチですね」
思わず顔が綻んだ。
するとその人は、人の良さそうな瞳をふにゃっと細めて
「僕、四月生まれで花って漢字が名前についてるんだ。180もある大男にしてはあまりに可愛らしいから、自分でも面白くなっちゃって。開き直って積極的に花柄使ってるんだよね」
「君が笑ってくれるなら、この名前でよかったなぁ」と。
名の通り花が咲いたような笑顔でこちらを見るので、
その優しさに、止まっていたはずの涙が込み上げてくる
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
42 / 42