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カフェCowardに着けば、今日も変わらずにアールデコ調の、どこか懐古的な雰囲気を持つお洒落なバーカウンターが、俺を出迎えてくれるので。
それに答えるかのように、店主が出てくる前に黒の皮張りの丸椅子に腰掛けて。
年季の入ったメニュー表を、義手の右手で掴んでから……。
──ゆっくり物語を開くように、メニュー表を開ければ。
「おお!? なんだよ、ヴィクトル? 来てるなら、声ぐらいかけろよな」
「嗚呼悪りぃ……その、邪魔するかなって思ってさ? だってさ、暇あればマスター。セシュとエッチな事してるし」
「なっ……!? バカを言うな、そんな事なんか全然してねぇよ……って言いたい所だが。それなりにはなって、そう言うお前こそ。あの変わり者公爵様と、隙あらばズコバコやってんだろう?」
イヤラしく下劣な笑みを浮かべて、長めのスポーツ刈りに顎髭を生やした赤髪の、このバーのマスターであるエリックはそう言い放ってから、鋭い緑の瞳で、俺をじっと見つめながら、さらに言葉をこう続ける。
「……だって、お前あの公爵様の恋人なんだろ? 例えそれがそう言う約束だとしてもさ。独占欲も倫理観もやばいアイツと、一緒にいる時点で……」
「はいはい、そこまでにしろよな!! 確かに俺とアイツは、恋人関係という、絶対的な約束で、一緒に行動してるけどな。マスターが言う程の事はねぇからな!! それだけは、勘違いすんなよ!!」
俺はアレクセイと自分との間で結ばれた約束について、明らかに馬鹿にするような言い回しで、答えるエリックに。
──野良猫が毛を逆立てて威嚇するように、感情を剥き出して猛烈に怒れば。
「おいおい、どうした? そんなに怒るなよな!! ごめんなヴィクトル……。冗談だから、そう怒んなよ」
「冗談だとしても、言うんじゃねぇよバカ!! そんなことより、ハムチーズのあったかホットサンドくれよな」
「……ホットサンドか、良いぜちょっと待ってな。すぐに作ってやるからな」
そうエリックはガハガハと、豪快に笑いながら答えて。
バーの奥にあるキッチンルームへ入って行くので、俺はその待ち時間の合間に。
ふと、あの時なんでアレクセイは俺に……。
──恋人になって欲しいと、言ってくれたのだろうかと。
そう考えて、俺とアイツが出会ったあの日の事を、少しだけ思い出せば。
──あの日も今日と同じ、雨だった事を思い出して。
(何だか、良いことが起きるのは、決まって雨の日に重なるな……)と考えながら、一人で挑んだ事件のトラップに、まんまと捕まって。偶然居合わせたアレクセイに、助けて貰わなければ、あの場所で自分は、死んでいただろうと思いながらも……。
──どこかあの時に死んでしまえば、自分が探している何かに、近づけたのかもしれないと、ほんの少し考えつつも。そんな思いを、何千何倍も飛び越える程の特異な存在であり、人に触れる事も、人に触られる事も大嫌いで。
『みんなか弱いから、そう言って俺を嫌う事で、強くあろうとするんだ』と思って、心底嫌いな相手を、好きだと偽って仲良くしている俺の……。
──唯一の救いと言わんばかりの存在である彼に、どう感謝を伝えれば良いのか、分からなくて……。
訳の分からないまま、あの時……。
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